富士通が開発中の次世代CPU「FUJITSU-MONAKA(モナカ)」は、まだ1個も市場に出荷されていない。それにもかかわらず、この2nmチップは日本の半導体戦略とAIインフラ論の中で異様に大きな存在感を放っている。理由は単純で、NVIDIAのGPUが世界のAI計算基盤をほぼ独占する状況に対して、「CPUだけで70Bクラスの大規模言語モデルを扱える」という数字が独り歩きしているからだ。
この主張がどこまで実証されたものなのか、そしてそれが本当に競争力につながるのかを検証するに値する理由は、単なる新製品スペックの話にとどまらないところにある。MONAKAは経済産業省傘下のNEDOグリーンイノベーション基金の支援を受け、スーパーコンピュータ「富岳」の後継機「富岳NEXT」の心臓部にも据えられる、国家的な半導体自立戦略の中核部品でもある。ソブリンAI(自国で管理・運用できるAI基盤)という政策的な追い風の中で、この国産CPUがどこまで戦えるのかは、富士通一社の話にとどまらない意味を持つ。
結論を先に書く。MONAKAの確定仕様(144コア/ソケット、2nm+5nmの3Dチップレット、12チャネルDDR5、2027年出荷)はすでに固まっている。一方で「70Bパラメータ級モデルに対応」という話は、実測ベンチマークではなく2025年12月の欧州クラウド事業者Scalewayとの提携発表に基づく能力表明であり、トークン生成速度などの絶対性能はいまだ一切公開されていない。MONAKAの勝ち筋は「GPUより速い」ことではなく、大容量メモリ・電力効率・空冷可能な設計・国産という4点を武器に、日本国内のソブリンAI需要と欧州のデータ主権需要を取りにいくことにある。最大のリスクは、Arm自身が「AGI CPU」という名で同じ土俵に自社シリコンを投入し始めたことも含め、CPUベースのAIインフラ市場そのものが2026年に入って急速に混雑してきたことだ。
1. FUJITSU-MONAKAとは何か——確定している仕様
MONAKAは、Armv9-Aアーキテクチャに基づき、Arm SVE2(Scalable Vector Extension 2、ベクトル幅256bit)を演算に用いるデータセンター向けCPUである。1ソケットあたり144コアを搭載し、デュアルソケット構成では最大288コアまで拡張できる。メモリは12チャネルのDDR5、I/OはPCIe 6.0(CXL 3.0対応)。Arm CCA(Confidential Compute Architecture)による機密計算にも対応し、空冷・水冷の両方で運用できる設計になっている。開発は経済産業省・NEDOの「グリーンイノベーション基金事業/次世代デジタルインフラの構築」の一環である「次世代グリーンデータセンター技術開発」プロジェクトの支援を受けており、富士通はNEC、アイオーコア、キオクシア、京セラなどと共に2022年2月にこのプロジェクトへの採択を受けている。プロジェクト全体の目標は、2030年までに開発開始時点で普及していたデータセンター比で40%以上の省エネを実現することだ。
最大の技術的な見どころはパッケージング技術にある。2026年2月、富士通はBroadcomの3.5D XDSiP(eXtreme Dimension System in Package)プラットフォームを採用することを公表した。TSMCの2nm(N2)プロセスで製造される36コアの演算チップレットを4基用意し、これをTSMCの5nm(N5)で製造されるSRAM(キャッシュ)タイルの上にフェイス・トゥ・フェイスで積層し、ハイブリッド銅接合(HCB)で貼り合わせる。さらにこの4組の3D積層ブロックを、中央の大型I/Oダイ(メモリコントローラ、PCIe 6.0/CXL 3.0)とシリコンインターポーザ経由の2.5D接続でつなぐ。もっとも高価な2nmプロセスを演算ダイのみに限定することで、最先端プロセス面積の割合を全体の3割未満に抑えるコスト設計になっている点は、半導体解説メディアのChips and Cheeseも指摘している。2026年春にはこの実物ウェハとパッケージサンプルがPC Watchの取材で公開され、開発が計画通り進んでいることが示された。富士通の説明員によれば、エンジニアリングサンプルの提供開始は2026年夏頃、商用出荷は2027年度を予定している。
MONAKAは、スーパーコンピュータ「富岳」に搭載されたA64FX(Armv8-A、48コア、HBM2、TOP500で2020〜2022年に世界1位)の後継にあたる。ただし設計思想は大きく転換している。A64FXがHBM2を採用したシングルソケット・HPC特化型だったのに対し、MONAKAはHBMを採用せずDDR5に振り切り、デュアルソケットで汎用のデータセンター・AI・通信・エッジコンピューティングを幅広くカバーする設計になっている。富士通は2027年の出荷時点で、競合CPU比でアプリケーション実行性能・電力あたり性能とも約2倍を目標に掲げているが、これはあくまで開発目標値であり、実測のベンチマーク結果ではない。
開発ロードマップは以下の3世代で構成される。第1世代のMONAKA(2027年、2nm)はHPCと汎用AIを主用途とする。第2世代のMONAKA-X(2029年、1.4nm)では、サーバー級Armプロセッサとして世界初となるArm SME2(Scalable Matrix Extension 2)を実装し、NPU(AI専用アクセラレータ)をオンパッケージで統合する計画で、すでに富岳の後継機「富岳NEXT」への採用が決まっている。第3世代のMONAKA-XX(2031年)では、CPUとNPUを完全に融合させることを目指す。「MONAKA-X with NPU」を独立した別世代として扱う説明を見かけることがあるが、これは正確ではない。NPU統合はMONAKA-X(2029年)の段階ですでに計画に組み込まれている。
| 世代 | 時期 | プロセス | 主な特徴 | 位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| MONAKA | 2027年(出荷予定) | 2nm+5nm 3Dチップレット | 144コア/ソケット、SVE2、12ch DDR5 | HPC・汎用AI・データセンター |
| MONAKA-X | 2029年(製品化予定) | 1.4nm | サーバー級Arm初のSME2、NPU統合、NVLink Fusion | 富岳NEXTに採用決定済み |
| MONAKA-XX | 2031年(目標) | 1.4nm以降 | CPUとNPUの完全融合 | 次世代AI-HPC融合 |
2. 「70BクラスLLMに対応」という主張の中身
この数字の出所は一つしかない。2025年12月4日、富士通と欧州最大級のクラウド事業者Scaleway(フランス)が発表した戦略提携(MoU締結は同年11月27日)である。両社の公式発表文をそのまま要約すると、「特定の推論タスクにおける暫定試験の結果、従来手法と比較して電力効率が最大1.9倍、コスト効率が最大1.7倍に達し、MONAKAは最大700億パラメータのモデルを扱えることが示された」という内容になる。ここで注意すべき点が3つある。第一に「最大」(up to)という上限値の表現であること。第二に「特定の推論タスク(selected inferencing tasks)」という限定がついていること。第三に「暫定試験(preliminary testing)」であり、最終シリコンではなく評価用のプロキシ環境での測定である可能性が高いことだ。トークン生成速度やレイテンシといった絶対的な性能値は、この発表を含め富士通から一切公開されていない。
では技術的に何が70Bクラスの推論を可能にするのか。LLM推論のうちトークン生成(デコード)段階はメモリ帯域に律速される処理であり、70Bパラメータのモデルは重みだけでINT8量子化時に約70GB、FP16時に約140GBのメモリを必要とする。MONAKAは12チャネルのDDR5を採用しており、GPUのVRAM容量(NVIDIA H100で80GB、H200で141GB)という1枚あたりの制約を受けずに、大容量メモリを比較的安価に確保できる。第三者の推定では、DDR5を1DPC(1チャネル1枚)でフル実装した場合の理論上の最大容量は1ソケットあたり約3TBに達するとされる(Tom's Hardware、2024年12月時点の記事)。ただし富士通は採用するDDR5の速度規格を公式には明らかにしておらず、メモリ帯域についても同時期のChips and Cheeseの試算で「DDR5-6400を仮定すれば600GB/s超」、Tom's Hardwareの試算で「460〜844GB/s程度」という幅のある推定値が出ている段階にとどまる。参考までに、NVIDIA GraceのLPDDR5Xは約1TB/s、H100のHBM3にいたっては3.35TB/sを超える帯域を持つ。つまりMONAKAのメモリ帯域はGPUのHBMには遠く及ばず、これがCPU推論のトークン生成速度における根本的な制約になる。
この制約を踏まえると、MONAKAの現実的な立ち位置が見えてくる。GPUに対して「トークン/秒」の絶対速度で優位に立つことは原理的に難しい。差別化の軸はそこではなく、(1)ソケットあたりの大容量メモリでモデル全体を1台に収められること、(2)電力効率と空冷可能性によるデータセンターの電力・冷却制約の緩和、(3)TCO(総所有コスト)の最適化、(4)国産CPUとしてのデータ主権・ソブリンAI適合性、の4点にある。富士通自身もNVIDIAとの提携文脈で、GPUを置き換えるのではなく「CPUが推論オーケストレーションや周辺処理を担い、GPUが大規模な学習・推論本体を担う」という役割分担を前提とした説明をしており、MONAKAはGPUの代替ではなく補完として位置づけられている。
3. AI活用における想定ユースケース
- 企業向けAIエージェント基盤——2025年10月3日、富士通はNVIDIAとの提携拡大を発表し、自社のAIエージェント基盤「Kozuchi」をNVIDIA Dynamo・NeMo・NIMと統合するフルスタック構想を示した。MONAKA CPUとNVIDIA GPUをNVLink Fusionで密結合し、ヘルスケア・製造・ロボティクスなど業種特化のAIエージェントをまず日本国内で、その後グローバルに展開する計画である。
- ソブリンAI・行政AI基盤への波及可能性——日本政府は2026年3月、デジタル庁が開発した「ガバメントAI 源内(げんない)」の全府省庁約18万人規模での実証を開始し、同年4月にはOSSとして公開している。こうした国産・自国管理型AI基盤への政策的需要が高まっていること自体は事実だが、現時点でMONAKAがこの源内や産総研の計算基盤に採用されたという公式発表は存在しない。あくまで戦略的な親和性の指摘にとどめておくべきだろう。
- 製造業のAIサロゲートモデル(CAE高速化)——富士通とタイヤメーカーのDUNLOP(住友ゴム工業)は、タイヤの構造解析にAIサロゲートモデルを適用する共同検証を行っている。従来のFEM(有限要素法)解析と比較して計算時間を約45分から約5分に短縮(約9倍高速化)し、接地形状の予測精度は平均87.7%を達成したと発表されている。これとは別に、流体解析分野でもAIサロゲートモデルがOpenFOAMによるHPCシミュレーション比で約5倍の高速化、精度91.1%を達成したことが富士通のISC2026向け資料で示されている。両技術はMONAKAの試作機を用いた検証を2026年12月までに開始する計画で、DUNLOPは2027年4月までの実運用開始を目指すとしている。
- 機密性を要するオンプレ・エッジ推論——Arm CCAによる機密計算に対応しているため、金融・医療・行政分野でのデータ保護と、空冷で運用できる柔軟性を組み合わせたオンプレミス/エッジでのAI推論に向くとされる。
4. AI以外の用途
MONAKAの用途はAI推論に限らない。もっとも確度の高い非AI用途は、富岳の後継機「富岳NEXT」である。2025年8月22日、理化学研究所・富士通・NVIDIAは共同でこのプロジェクトを発表した。開発予算は1,100億円超(約7.4億ドル)、2029年に神戸のポートアイランドへ搬入、2030年の稼働開始を目指す。富岳と比べてハードウェアで約5倍、ソフトウェア最適化で10〜20倍、合計で実アプリケーション性能約100倍を目標に掲げ、AI性能(FP8精度・sparse)で600エクサFLOPS超という「ゼッタスケール」を標榜する。この数字はFP8ベースのAI性能指標であり、従来のTOP500基準であるFP64演算性能とは尺度が異なる点に注意が必要だ。電力枠は富岳と同じ約40MWに据え置く計画で、CPUにはMONAKA-Xが採用され、NVIDIAのGPUとNVLink Fusionで接続される。理化学研究所が開発主導、富士通が設計契約を担い、NVIDIAがGPUを供給する体制である。
富士通は公式にMONAKAを「データセンター、通信、エッジコンピューティングまで」対応する汎用プロセッサと位置づけている。データベースなど一般的なエンタープライズワークロードでのTCO最適化を掲げているが、具体的な性能倍率については公式ベンチマークが公開されておらず、この記事では数値を伴う主張は避ける。通信・5G基盤事業(1FINITYなど)との親和性についても、富士通は同事業を展開しているが、MONAKAとの具体的な統合実績はまだ確認できていない。
5. 競合ポジショニング
MONAKAが実際に出荷される2027年には、Armベースのデータセンター向けCPU市場はすでに相当に混雑している。2025年末から2026年前半にかけて、NVIDIA Grace系、Arm自身の「AGI CPU」、AWSのGraviton5、MicrosoftのAzure Cobalt 200といった有力製品が相次いで発表・一般提供されており、MONAKAはこの「後発」というハンディを負って市場に参入することになる。
| 項目 | FUJITSU-MONAKA | NVIDIA Grace | Arm AGI CPU | AWS Graviton5 |
|---|---|---|---|---|
| コア | 144(デュアルソケットで288) | 72(Superchipは144) | 最大136(2ダイ) | 192(4チップレット) |
| コアIP/プロセス | Armv9-A・SVE2/TSMC 2nm+5nm | Neoverse V2/TSMC 4nm | Neoverse V3/TSMC 3nm | Armv3世代コア/TSMC 3nm |
| メモリ | 12ch DDR5(速度未公開) | LPDDR5X、約1TB/s | 12ch DDR5-8800、800GB/s超 | DDR5-8800、L3キャッシュ192MB |
| 出荷状況 | 2027年出荷予定(未発売) | 出荷中(2023年〜) | 2026年3月発表、下期より本格出荷 | 2026年6月一般提供開始 |
| 外販の有無 | CPU単体・サーバー方式で外販予定 | 外販(サーバーメーカー向け) | 外販(Meta主導、他社にも提供) | AWS内製・自社クラウド専用 |
NVIDIA Graceは、すでにGrace HopperやGrace Blackwellといったスーパーチップとして市場に浸透しており、CUDAエコシステムとの統合という圧倒的な強みを持つ。ただし富士通はGraceを単純な敵として扱っているわけではなく、NVLink FusionによるCPU-GPU連携という形でNVIDIAとの協業を選んでおり、MONAKAはGraceの直接的な代替というより、NVIDIA陣営の中の「もう一つの選択肢」というポジションを取りにいっている。
より注視すべきはArmの「AGI CPU」だ。2026年3月24日、Arm社は35年の歴史で初めてとなる自社設計・自社製造の完成品シリコンとして「AGI CPU」を発表した。Meta社が主導パートナーとして共同開発し、Neoverse V3コアを最大136基(2ダイ構成)搭載、TSMCの3nmプロセスで製造され、全コア稼働時3.2GHz・ブースト時3.7GHz、TDP300W、12チャネルのDDR5-8800で800GB/s超の集約帯域、PCIe Gen6を96レーン、CXL 3.0に対応する。OpenAI、Cloudflare、Cerebras、SAP、SK Telecomなども導入パートナーに名を連ねる。AGI CPUはLLM推論そのものというより「エージェント型AIのオーケストレーション」(アクセラレータの管理、スケジューリング、データ移動)に特化した設計であり、MONAKAが狙う汎用データセンター+AI推論という守備範囲とは重なりつつもズレがある。ただしArmがIPライセンスビジネスから完成品シリコン販売へと踏み出したこと自体が、MONAKAにとっての競争環境を一段と厳しくする材料であることは間違いない。
ハイパースケーラー各社の内製Armチップ——AWS Graviton5(192コア、2026年6月一般提供開始)、Google Axion、Microsoft Azure Cobalt 200(132コア、2026年提供予定)——は、いずれも自社クラウド専用で外販されないため、MONAKAの直接競合というより「CPUがAI関連処理を担う」という業界トレンドの傍証と見るべきだろう。ただし、クラウド最大手が軒並みArmベースの自社設計に舵を切っている事実は、MONAKAが外販で食い込める余地を相対的に狭めている面もある。x86陣営(AMD EPYC、Intel Xeon 6のAMX拡張)は、すでに巨大なソフトウェア資産とISVサポートを持つ既存勢力であり、MONAKAにとって最大の実務上の障壁になるのはこの部分だろう。なお富士通はAMDとも2024年11月にMoUを締結しており、MONAKA CPUとAMD Instinctアクセラレータを組み合わせたプラットフォームを2027年までに共同開発する計画を持つ。NVIDIA一辺倒ではなく複数のGPUベンダーと組む「両にらみ」の戦略を取っている点は特筆に値する。
6. 市場見通し——国内と海外
もっとも確度の高い市場は日本国内である。2026年2月12日、富士通は経済安全保障推進法における特定重要インフラ事業者向けを念頭に置いた「国産ソブリンAIサーバー」の生産開始を発表した。石川県かほく市の笠島工場で、まず2026年3月からNVIDIA HGX B300やRTX PRO 6000 Blackwellを搭載したサーバーの生産を開始し、基板組み立ては同年6月から始める。MONAKA搭載サーバーについては2026年度中(2027年3月末まで)の生産開始を目指すとしている。一方、2026年8月のダイヤモンド編集部の取材によれば、MONAKAチップ自体のTSMCでの量産開始は2027年3月末、出荷は同年4月とされている。チップの量産開始とほぼ同時に搭載サーバーの生産も立ち上げる計算になり、かなりタイトなスケジュールであることは念頭に置いておいたほうがよい。富士通はSupermicroとの協業を拡大し、AIサーバーの企画・開発・製造・販売・保守を一貫して提供する体制を敷いている。
海外では欧州が最初の橋頭堡になりそうだ。Scalewayとの提携は、GDPRを含むデータ主権規制と脱・NVIDIA依存への関心が強い欧州市場を念頭に置いたもので、2026年後半にはPoC(概念実証)が始まる見込みとされている。一方、米国・中国市場はNVIDIA、x86、ハイパースケーラーの内製チップが支配的であり、実績のない国産CPUがブランド認知・ISVサポートの面で食い込むハードルは高い。富士通・NVIDIA・AMDとの提携網、そしてSupermicro経由のグローバル展開が現実的な進出経路になるだろう。富岳NEXTという公共調達のアンカー案件を持っていることは、実績づくりの観点で大きな意味を持つ。
7. リスクと注視すべきポイント
- 絶対性能値が一切非公開——トークン/秒、レイテンシ、実測メモリ帯域、実測消費電力のいずれも公開されていない。「1.9倍」「1.7倍」「70Bパラメータ対応」という主張はすべて相対値・能力表明であり、実際の性能水準は2026年後半のPoC結果を待つ必要がある。
- ソフトウェア・ISVエコシステムの成熟度——x86陣営に対する最大のハンディはここにある。llama.cppやvLLMなど主要な推論エンジンへの最適化は進められているが、商用ISVの対応状況や開発者コミュニティの厚みは未知数である。
- Rapidusへの生産委託は未確定——次世代のMONAKA-X(1.4nm世代)について、富士通副社長CTOのヴィヴェック・マハジャン氏は「なるべく国内で生産したい」としてRapidusへの委託を優先的に検討していると述べているが、2026年内の委託先決定を目指す段階にとどまり、TSMCも引き続き候補に残っている。「Rapidus委託が有力」と断定するのはまだ早い。
- 市場そのものの混雑——Arm自身のAGI CPU参入、ハイパースケーラー各社の内製Armチップの相次ぐ一般提供により、MONAKAが2027年に出荷される頃には、CPUベースのAIインフラ市場はすでに複数の有力プレイヤーが存在する状態になっている。
まとめ
FUJITSU-MONAKAの確定仕様は野心的だ。2nm+5nmの3Dチップレット、144コア、12チャネルDDR5、空冷対応という組み合わせは、日本の半導体産業が久しく手にしていなかった最先端プロセスへの挑戦であり、それ自体に価値がある。一方で「70BクラスLLMに対応」という象徴的な数字は、2025年12月の提携発表に基づく能力表明の域を出ておらず、実測ベンチマークが公開されるまでは慎重に扱うべき情報だ。MONAKAの現実的な勝ち筋は、GPUとの速度競争ではなく、大容量メモリ・電力効率・空冷可能性・国産という属性を武器に、日本国内のソブリンAI需要と経済安全保障政策、そして欧州のデータ主権需要を取りにいくところにある。富岳NEXTという実績づくりの場を持っていることも強みだ。ただし、Arm自身のAGI CPU参入に象徴されるように、CPUベースのAIインフラという土俵そのものが2026年に入って急速に混み合ってきている。2026年後半に予定されるScalewayでのPoC結果、そして2027年の実出荷後に初めて公開されるはずの実測ベンチマークが、この主張の実力を判断する最初の材料になるだろう。
参考:富士通 FUJITSU-MONAKA公式ページ/Scaleway・富士通提携発表/The Register(Broadcom 3.5D XDSiP)/富岳NEXT発表(DCD)/Arm AGI CPU発表