2023年6月に「航空業界の2050年までに二酸化炭素排出を実質ゼロにする目標」という記事を書きました。ICAO(国際民間航空機関)が2022年の総会で2050年カーボンニュートラルの長期目標を採択したことを起点に、SAF(持続可能な航空燃料)が削減の主役になること、2030年代には水素航空機が登場すること、そして2020年代はまずeVTOL(いわゆる空飛ぶクルマ)がどこまで実用化されるかに注目したい、という内容でした。
あれから3年が経ちました。この種の長期目標を扱った記事は、書いた時点では誰も答え合わせができません。しかし3年という時間は、技術ロードマップの現実性を検証するには十分な長さです。実際、この3年間に起きたことは、当時の業界コンセンサスをかなりの部分で裏切るものでした。
結論を先に書きます。2050年ネットゼロという目標そのものは国際合意として堅持されている一方、それを支える技術のうち、水素航空機と固定翼の電動航空機は明確に後退しました。最大の柱であるSAFも、生産量は2025年時点でジェット燃料消費のわずか0.6%にとどまっています。他方、当時「まず注目すべき」と書いたeVTOLは、破綻と前進が交錯しながらも型式証明の最終局面まで到達しました。以下、領域ごとに現在地を整理し、3年前の見立ての答え合わせをします。
1. 2023年6月時点の見立て
まず元記事が何を前提にしていたかを整理しておきます。
- 航空は世界のCO2排出の約2.5%を占める。ICAO第41回総会(2022年)で2050年カーボンニュートラルの長期目標(LTAG)が採択された。
- 世界経済フォーラムの資料(2023年1月)を引き、2050年時点の削減はSAFが65%、電動化・水素が13%を担うという想定を紹介した。
- 飛行によるCO2排出の半分を占める2,500海里(約4,630km)未満の路線は電動・水素で置換可能であり、最長でも新千歳〜那覇(約2,587km)の日本国内線は理屈の上ではすべて置き換わりうる。
- イスラエルEviationの9人乗り電動機「Alice」(航続400km)を「空のテスラ」的な存在として挙げ、1,000〜1,500km級の小型機電動化、500km以下はeVTOL、という段階論を示した。
- エアバスが2020年に発表した水素旅客機コンセプト「ZEROe」(2035年実用化目標)に触れ、水素航空機の登場は2030年代と予測した。
- 日本勢としてホンダのSAF試験(HF120エンジンでの100% SAF試験)とHySE(水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合)を挙げた。
要するに「SAF主導+2030年代からの水素・電動+2020年代のeVTOL先行」という、当時としてはごく標準的な整理です。この3年で、このうち何が生き残ったのかを見ていきます。
2. この3年間に起きたこと
| 時期 | 出来事 | 領域 |
|---|---|---|
| 2023年10月 | EUがReFuelEU Aviationを正式採択(2025年2%からのSAF混合義務化) | 政策 |
| 2023年11月 | ICAO CAAF/3(ドバイ)で「2030年に国際航空CO2を5%削減」の努力目標に合意 | 政策 |
| 2024年1月 | CORSIA第1フェーズ(2024〜2026年、任意参加)開始 | 政策 |
| 2024年12月 | 独Volocopterが破産申請(2025年3月に中国・万豊傘下のDiamond Aircraftが資産買収) | eVTOL |
| 2025年1〜3月 | 中国EHangがパイロットレス旅客eVTOLの型式証明・運航許可(AOC)を取得し有償運航を開始 | eVTOL |
| 2025年2月 | エアバスがZEROe水素機を5〜10年延期・予算25%削減、A380水素試験機計画を中止 | 水素 |
| 2025年2月 | Eviationが大半の従業員を解雇し、電動機Aliceの開発を無期限停止 | 電動 |
| 2025年4月 | コスモ石油系の合弁が堺製油所で国産SAFの大規模供給を開始(年約3万kL) | 日本SAF |
| 2025年4〜10月 | 大阪・関西万博でeVTOLのデモ飛行。当初計画の商用有人運航は全事業者が断念 | 日本eVTOL |
| 2025年7月 | 米国でOne Big Beautiful Bill Act成立、45Z税額控除のSAF優遇上乗せが廃止 | 政策 |
| 2025年9〜10月 | ICAO第42回総会(モントリオール)で2050年ネットゼロとCORSIAを再確認 | 政策 |
| 2025年12月 | IATAが2025年のSAF生産量を約190万トン(ジェット燃料の0.6%)と発表 | 市場 |
| 2026年2月 | ATAGがWaypoint 2050最新版を公表、「今後5年が決定的」と警告 | 政策 |
| 2026年3月 | 日本政府が「空の移動革命に向けたロードマップ」を改訂、商用運航開始を2027〜2028年と明記 | 日本eVTOL |
3. SAF——最大の柱が伸びない
元記事でも中核に据えたSAFは、2026年時点でも削減の最大レバーであることに変わりはありません。ATAGのWaypoint 2050最新版は、2050年までの削減におけるSAFの寄与を38〜58%と見積もっています。問題は、その供給が業界自身の想定を毎年下回り続けていることです。
| 年 | 世界のSAF生産量 | ジェット燃料消費に占める比率 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 約50万トン(6億L) | 約0.2〜0.3% | 元記事を書いた頃の水準 |
| 2024年 | 約100万トン(13億L) | 0.3% | 前年比で倍増したが、IATAは当初予測を下回ったと表明 |
| 2025年 | 約190万トン(24億L) | 0.6% | 再び倍増。ただし伸び率自体は鈍化しているとIATAが指摘 |
| 2026年(見込み) | 約240万トン | 0.8% | IATA予測 |
| 2050年(必要量) | 約4.3〜5億トン | — | 現状の250倍超。ATAG/IATAの想定 |
2年で4倍近くに増えたと言えば健闘しているようにも見えますが、必要量まで250倍という距離を考えると、この増加率では到底届きません。しかも供給が細いままコストだけが上がっています。IATAは2025年にSAF調達で発生した追加コストを数十億ドル規模と説明しており、発表時点や算定の前提によって29億ドル、36億ドルといった数字が出ています。いずれにせよ、ジェット燃料全体の0.6%を賄うためにこの規模の追加負担が発生している、というのが実態です。SAFの価格は通常のジェット燃料の2〜10倍、合成燃料(e-SAF)では最大12倍とされます。
興味深いのは、IATAが義務化(マンデート)そのものに批判的な立場を取り始めたことです。事務総長のWillie Walsh氏は2025年12月の発表で、設計の悪い義務化がかえって価格を吊り上げ供給を阻害したという趣旨の指摘をしています。同氏は2025年6月のIATA年次総会でも、2050年ネットゼロは技術的には達成可能だがSAF生産の遅れによって達成時期に深刻な疑義が生じている、と述べました。業界団体のトップが目標の達成時期に公然と疑義を呈するというのは、2023年時点では考えにくい光景でした。
政策面では地域差が鮮明です。EUのReFuelEU Aviationは2025年1月施行で、SAF混合比率を2025年2%→2030年6%→2035年20%→2050年70%と段階的に義務化し、e-SAFのサブ目標を2030年1.2%→2050年35%と定めています。英国も2030年10%→2040年22%の義務化に加え、投資判断を後押しする収入確実性メカニズムを併設しました。対照的に米国は、2025年7月成立のOne Big Beautiful Bill Actで45Z税額控除を2029年末まで延長する一方、SAFに認めていた上乗せ(最大1.75ドル/ガロン)を廃止して他の燃料と同じ最大1.00ドル/ガロンに揃え、原料を北米産に限定し、間接的土地利用変化(ILUC)を算定から除外しました。SAF固有の優遇は実質的に縮小されています。
4. 水素航空機——「2030年代」が崩れた
元記事で最も期待を書いた領域が、最も大きく後退しました。
エアバスは2025年2月、ZEROe水素旅客機の実用化を5〜10年延期し、関連予算を25%削減すると決定しました。A380を改造した水素燃料電池の飛行試験機計画も中止されています。当初の2035年就航目標は実質的に2040年以降へずれ込みました。同社は「水素から離れるわけではないが、ロードマップは調整する」と説明していますが、一部の機体技術の成熟が想定より遅いという理由は、コンセプト発表から5年での大幅後退としては重いものです。欧州の業界ロードマップ「Destination 2050」も、水素航空機の2050年削減寄与を旧版の約20%から6%へ下方修正しました。
水素パワートレインのZeroAviaも、資金難で人員を縮小し、当初2025年としていたZA600の認証時期を燃料電池単体で2027年、統合パワートレインで2029年前後へ後ろ倒ししています。ただしこの領域は、機体側より規制の枠組み整備のほうが先行しているという珍しい状況にあります。FAAは2026年3月に600kW級電気エンジンの特別要件を最終規則として公示し、英CAAは2025年11月にZeroAviaへ設計組織承認(DOA)を付与しました。認証の道筋自体は引かれつつあるので、資金が続けば2030年前後に小型・地域機から入る、という筋書きはまだ残っています。
元記事で触れたホンダのHySEは二輪など小型モビリティ向けが主眼であり、航空機用水素エンジンとしての商用化像はまだ具体化していません。ホンダはSAF側での取り組みを継続しています。
5. 電動航空機とeVTOL——固定翼は総崩れ、eVTOLは前進
固定翼の電動航空機は、この3年で事実上退場しました。元記事で「空のテスラ」的な例として挙げたEviation Aliceは、2022年の8分間の初飛行以降、追加の飛行がないまま設計変更を繰り返し、2025年2月に大半の従業員を解雇して開発を無期限停止しています。DHLやニュージーランド航空を含む600機超の受注を抱えたままの中断でした。「1,000〜1,500km級の小型機から電動化が進む」という段階論は、少なくとも2020年代においては成立しなかったことになります。
一方、eVTOLは破綻と前進が同時進行しています。
| 企業 | 国 | 2026年8月時点の状況 |
|---|---|---|
| Joby Aviation | 米国 | FAA型式証明のStage 4(適合機の型式検査)に進み、2026年3月に適合機の飛行を開始したと報じられた。型式証明は未取得で、進捗の評価には報道間で幅がある。トヨタが累計8.94億ドルを出資。ドバイでの商用運航開始を計画 |
| Archer Aviation | 米国 | 適合性証明手法(Means of Compliance)のFAA受理を完了。アブダビでの商用開始を計画。ユナイテッド航空が最大15億ドルの発注、Stellantisが製造支援 |
| EHang | 中国 | 2025年1月にパイロットレス旅客eVTOLとして型式証明、3月に運航許可(AOC)を取得し有償運航を開始。2026年3月には広州・合肥で正式なチケット制サービスの開始が報じられた |
| Volocopter | ドイツ | 2024年12月に破産申請。2025年3月に中国・万豊傘下のDiamond Aircraftが約1,000万ユーロ規模で資産を買収 |
| Lilium | ドイツ | 2024年に経営破綻。投資家連合による救済を経て事業は縮小 |
| SkyDrive | 日本 | 万博でデモ飛行を実施。2026年3月に国土交通省と型式証明の全般計画書で合意、4月に国内初の航空機設計検査認定事業場(ADO)を取得。2028年の商用運航を目標 |
注目すべきは欧州勢の脱落と、その受け皿になった中国資本という構図です。VolocopterとLiliumという欧州の二枚看板がいずれも破綻し、Volocopterは中国資本傘下に入りました。認証で先行するのは米国のJoby・Archer、実際に有償運航を始めたのは中国のEHang、という状況になっています。2023年時点では欧州勢がリードしているようにも見えていたので、この3年での勢力図の入れ替わりは大きいものでした。
6. 排出量そのものは増えている
技術面の話が続きましたが、肝心の排出量はどうなったか。需要回復により、むしろ増えています。IATAのNet Zero Progress Reportによれば、2024年の航空総排出量(グロス)は942百万トンで、2023年の882百万トンから増加しました。IEAも2024年の航空排出が記録的な旅客需要を背景に約5.5%増加したとしています。そして同年、業界の緩和策(SAFとオフセット)が削減できたのは総排出の約1.0%にすぎません。
制度面では、ICAOが2025年9月23日〜10月3日にモントリオールで第42回総会を開催し、2050年ネットゼロを含む環境決議を再確認しました。ただし依然として拘束力のある中間削減目標は合意されておらず、2023年のCAAF/3で合意した「2030年に国際航空CO2を5%削減」も努力目標にとどまります。市場メカニズムであるCORSIAは2024年から第1フェーズ(任意参加)が始まり、2027年からは第2フェーズで参加が原則義務化されます。日本の航空会社にもオフセット義務が及ぶ局面が近づいています。
ATAGが2026年2月に公表したWaypoint 2050の最新版は、2050年ネットゼロは依然として達成可能としつつ、今後5年が決定的であると警告しました。同時に、SAFの寄与を38〜58%、そして市場メカニズム(オフセット等)で処理する残余排出を19〜32%と見積もっています。「ネットゼロ」の3割近くをオフセットで埋める可能性があるという想定は、実削減(in-sector)の見通しがそれだけ厳しくなったことの裏返しでもあります。
7. 日本の現在地
日本については、SAFとeVTOLの両方で具体的な動きがありました。
SAF:2030年に本邦エアラインの燃料使用量の10%(約171万kL)をSAFに置き換える目標が設定されています。支援策としてGX経済移行債からSAF関連設備投資へ5年で約3,400億円、戦略分野国内生産促進税制で1Lあたり30円の税額控除が用意されました。そして2025年、コスモ石油・日揮ホールディングス・レボインターナショナルの合弁「SAFFAIRE SKY ENERGY」が堺製油所で廃食用油由来の国産SAFの供給を開始しました。年産約3万kL、ISCC CORSIA認証取得済みで、JAL・ANAへの供給が始まっています。国内で作って国内で使う体制ができたこと自体は前進ですが、3万kLは2030年目標171万kLの2%弱にすぎません。しかも廃食用油という原料には量的な上限が見えており、次世代原料(バイオエタノール由来のATJ、木質、e-SAF)への移行と原料の安定確保が次の課題になります。
eVTOL:大阪・関西万博は、この分野にとって試金石でした。結果から言えば、当初計画されていた来場者を乗せた商用有人運航は全事業者が断念し、デモ飛行にとどまりました。耐空証明・型式証明の取得が間に合わなかったためです。SkyDriveは2025年7月末から8月にかけて遠隔操縦によるデモ飛行を実施し、丸紅が扱ったHEXAは4月26日のデモ中に機体が損傷して一時中断しました。「2025年の万博で空飛ぶクルマが実用化される」という2019年頃からの期待値に対しては、明確な未達です。
これを受けて、経済産業省・国土交通省の官民協議会は2026年3月27日に「空の移動革命に向けたロードマップ」を改訂し、商用運航開始時期を2027〜2028年と明記しました。2030年代前半に遠隔操縦での旅客輸送とAAMコリドーなど新たな交通管理、2030年代後半に自動・自律運航の一部実現、という段階が示されています。SkyDriveは2026年3月に国交省と型式証明の全般計画書で合意し、4月に国内初のADO(航空機設計検査認定事業場)を取得しました。制度と手続きは着実に進んでいますが、万博で一度スケジュールが崩れた以上、2028年という時期も相応の幅を持って見るべきでしょう。
8. 3年前の見立ての答え合わせ
| 2023年6月時点の見立て | 2026年8月時点の結果 | 評価 |
|---|---|---|
| 2050年ネットゼロ目標は国際合意として維持される | ICAO第42回総会(2025年)で再確認。ただし拘束力のある中間目標は依然なし | 的中 |
| SAFが削減の中核(2050年に65%寄与という想定を紹介) | 最大レバーである点は不変だが、最新の想定では38〜58%に下方修正 | 方向性は的中 |
| SAFは今のところ全く足りていない | 2025年でジェット燃料の0.6%。当時の悲観がむしろ的確だった | 的中 |
| 水素航空機の登場は2030年代 | エアバスZEROeは5〜10年延期で2040年以降へ。ZeroAviaも後退 | 大幅に楽観的すぎた |
| 2020年代にeVTOL・小型電動機の実用化が進む | 中国では有償運航が始まり、米国は認証最終局面。日本は2027〜2028年へ | 概ね妥当 |
| 電動航空機は大型化・長距離化が進む(Alice等) | Aliceは開発停止。固定翼の電動化は事実上停滞 | 外れ |
| 日本国内線は電動・水素に置換可能 | 理屈としては残るが、想定した時間軸は現実的でなくなった | 時期は非現実的 |
総括すると、「SAF主導」「目標は維持される」という大枠は当たり、「技術が間に合う時期」の見立てはほぼ全て楽観的すぎたということになります。特に示唆的なのは、元記事の中で最も慎重だった記述——SAFが全く足りていないという指摘——が最も正確だった点です。逆に、具体的な機体や年次に紐づいた期待(Alice、ZEROeの2035年)はことごとく外れました。長期目標を扱う記事では、制度の慣性は当たりやすく、個別プロダクトの時間軸は外しやすい、という教訓かもしれません。
9. 今後の見込み
ここからは筆者の推定です。
短期(〜2028年):SAFはジェット燃料比で1〜2%台にとどまる公算が高いと見ます。EU・英国の義務化が需要を牽引しますが、価格の高止まりと供給不足は続きます。CORSIA第2フェーズ(2027年〜)で排出権需要が押し上げられ、オフセット価格が上昇する可能性があります。eVTOLは米国と中東で限定的な商用運航が始まり、日本は2027〜2028年の商用運航開始を目指す段階。水素旅客機はこの期間中には商用化しません。
中期(〜2035年):EUの2035年20%目標に向けてe-SAFが立ち上がるかが最大の焦点になります。技術的には可能でも、通常燃料の最大12倍というコストと、必要となる再エネ電力・グリーン水素の供給が制約です。水素航空機はエアバスの延期により2035年就航が絶望的になったので、小型・地域機で先行する可能性のほうが高いでしょう。eVTOLは空港アクセスや都市間の特定路線でニッチ市場を形成しますが、当初語られた「空飛ぶタクシーが日常の足になる」像には届かないと見ます。
長期(〜2050年):ネットゼロ達成にはSAFを現状の250倍超に拡大する必要があり、これが最大のボトルネックであり続けます。実削減が届かない分は市場メカニズムで埋めることになり、「実質ゼロ」の中身がオフセット依存に傾くリスクがあります。
| シナリオ | 前提 | 2050年ネットゼロの達成 |
|---|---|---|
| 楽観 | 政策支援でSAF・e-SAFが急拡大、水素が2040年代に商用化、需要の伸びが鈍化 | 達成可能(ただしオフセット併用が前提) |
| 基準 | SAFが漸増、水素は限定的な用途にとどまり、オフセット依存が拡大 | 部分達成(グロスでは未達、ネットで接近) |
| 悲観 | 米国型の政策後退が波及、コスト高で普及が停滞、需要は高成長を維持 | 未達(大幅な排出が残存) |
なお、業界団体(ATAG・IATA)が一貫して「達成可能」と表現している点は割り引いて読む必要があります。これは業界の努力目標を反映した表現であり、裏を返せば「現状の延長では達成困難」という警告でもあります。独立系の研究機関にはより慎重な見方もあります。
見通しが変わるかどうかを判断する指標としては、次のあたりを見ておくとよさそうです。世界のSAF生産量が2028年までにジェット燃料の2%を超えるか。e-SAFの大規模プラントで最初の最終投資判断(FID)が2027年までに出るか。JobyまたはArcherがFAA型式証明を取得するか。そして米国の45Z縮小が実際にどれだけSAF投資を冷やすか。
10. まとめ
3年前の記事を書いた時点で、私は「2020年代にeVTOLがどこまで実用化されるかに注目したい」と締めました。その注目の仕方自体は間違っていなかったと思います。ただし、注目した結果として見えてきたのは、技術の進歩より認証と資金という地味な壁のほうが決定的だったという事実です。VolocopterもLiliumもEviationも、技術で行き詰まったというより、証明を取り切る前に資金が尽きました。
SAFについても同じ構図が見えます。技術(HEFA、ATJ、e-SAF)は既に存在し、認証も済んでいます。足りないのは、通常燃料の数倍というコストを誰がどう負担するかの合意です。義務化で需要を作った欧州では価格が上がり、税制で供給を支えようとした米国は政権交代で後退しました。日本は国産量産をようやく始めた段階です。
2050年まであと24年。ATAGが「今後5年が決定的」と書いたのは、おそらく正しい認識です。2030年前後にSAFの生産曲線が立ち上がらなければ、残りの20年でその遅れを取り戻すのは現実的でなくなります。次にこのテーマで答え合わせをするとしたら、2030年か2031年あたりが適当でしょう。そのときSAFがジェット燃料の何%になっているかで、2050年の姿はかなり見えてくるはずです。