今回はVTOL型固定翼ドローン(垂直離着陸型固定翼ドローン)を開発、販売しているメーカー4社と代表モデルを紹介したいと思います。VTOL型固定翼ドローンというのは、ドローンと聞いてすぐに思い浮かべるマルチコプター型のドローンではなく、旅客機のように固定翼が付いている&垂直離着陸も出来る、いいとこ取りのドローンのことです。形としてはeVTOLのリフト&クルーズ型が多い気がしますね。
2015年に設立されたソニーとZMPの合弁会社です。主に産業用ドローンの開発、サービス提供を行っています。エアロセンスが開発しているドローンにはマルチコプター機が多いですが、VTOL型固定翼機も1機種あります。
- 外形寸法:2150 x 1235 x 415 mm (プロペラ含まず)
- 動力:バッテリーのみ
- 最大離陸重量:11kg
- 最大ペイロード重量:1kg
- 航続距離:50km
- 航続時間:40分
- 最大速度:100km/h
- 巡航速度:65km/h
- ホバリング限界高度:不明
- 価格:500万円〜
代表的な国産VTOL型固定翼ドローンと呼んで良いモデルです。マルチコプター機と比較すると、バッテリーだけでも長距離、長時間飛行できることがVTOL型固定翼機の特徴です。
エアロボウイングはエアロセンス自体が出自がしっかりしている会社からか、多くの国、自治体の検証プロジェクトで活用されているイメージがあります。最大離陸重量は11kgとなっているので、最大離陸重量25kg未満のクラスですね。
以下はエアロセンス社のニュースリリースですが、ここ半年だけでも多くの発表をしています。
国土地理院の広報誌に、当社製ドローンが南極で活用された事例について掲載されました 2023.06.01
エアロセンス、東京都23区内の人口集中地区で 国内初となる固定翼型ドローンの運航を実施 2023.01.25
このように測量や空輸の検証事業などで活躍しているエアロボウイングですが、流石にペイロード1kgと小型なこともあり、大型モデルの開発が進められています。そして、この開発は経済安全保障重要技術育成プログラムに採択されています。
エアロセンス株式会社、内閣府が主導する 経済安全保障重要技術育成プログラムに採択 2023.06.08
2年後を目標に開発する次期大型VTOL機のスペックは以下のようになっています。
- 全幅:4500mm
- ペイロード:10kg
- 飛行時間:90分以上
サイズ感は2倍になり、ペイロードと飛行時間が伸びた、という感じですね。飛行時間90分以上ということなので、恐らくバッテリーのみではなく動力にエンジンを利用するのではないかと思います。
空解はラジコン飛行機エアロバティック競技のトップパイロット&エンジニアが2021年に設立した異色の、そして非常に新しい企業です。ただ、ラジコン飛行機は20年以上取り組んできたということで、他のドローンと比較してもかなり高性能なモデルを開発しています。
- 全長: 1475mm
- 全幅: 2100mm
- 動力:バッテリーのみ
- 最大離陸重量:不明
- 重量: 2580g (バッテリー無)
- 最大ペイロード重量:2.5kg (航続時間40分)
- 航続距離:120km
- 航続時間:120分
- 最大速度:120km/h
- 巡航速度:不明
- ホバリング限界高度:不明
- 価格:不明
- 全長: 2480mm
- 全幅: 3500mm
- 動力:バッテリーのみ/エンジン利用
- 最大離陸重量:不明
- 重量: 12kg (バッテリー無)
- 最大ペイロード重量:10kg
- 航続距離:400km(バッテリーのみの場合は120km)
- 航続時間:350分
- 最大速度:150km/h
- 巡航速度:不明
- ホバリング限界高度:不明
- 価格:不明
これらは先日開催されたJapan Drone 2023(6/26-28)でも紹介されていたモデルです。(私は本展示会に行けていませんが😢)これらのモデルの特徴はともかく本体が軽いことです。バッテリー込みの重量、最大離陸重量が分からなかったのですが、これまでドローンのスペックはそれなりに見てきましたものの、ここまで軽いのはあまりないのでは?と思います。厳しい制限がある競技ラジコン飛行機のノウハウをもとに開発された、ということでしょう。
QUKAI FUSION®️ 2.4が最大離陸重量25kg未満、QUKAI MEGA FUSION®️ 3.5が最大離陸重量25kg以上150kg未満のクラスになると推測されます。どのくらいの高度を飛行する想定なのかも気になるところです。
ここまででお気づきになるかと思いますが、エアロセンスが次期大型VTOL機のスペックとして公開しているスペックを実はQUKAI MEGA FUSION®️ 3.5は既に達成してしまっているんですよね。実際には飛行高度や天候の話もあるようなのでそちらの達成度合いが不明なところではありますが、ドローン単体として重要なペイロードと飛行時間は達成済みです。まあ、高性能なモデルが多くあることは悪いことではありません。エアロセンス側には開発を進めていただき、空解側にはどんどん実証飛行を進めて行って頂ければと思います。もっと自治体を巻き込んだ方が良い気がしますね。航続距離も長いので、伊豆諸島で実証実験しましょうと東京都などを巻き込むのも良い気がします!東京都は予算があるし😁
いや、自分で書いておいて何ですが、東京都に売り込むのはとても良い気がしますね。以前書いた「東京愛らんどシャトル路線から考える無人航空機に必要な航続距離」で距離をまとめましたが、QUKAI MEGA FUSION 3.5であれば伊豆諸島の全ての島に既に荷物を届けることが可能な航続距離を保有しています。なんなら23区内から最も遠い青ヶ島も360km程度の距離なので、既に到達可能なんです。そして、QUKAI MEGA FUSION 3.5を改造して搭載燃料を増やし、ペイロードを減らせばもしかしたら小笠原諸島まで到達することも可能かもしれません。小笠原諸島の父島は基本的に空路はなく、海路も週1本の船だけです。本当に困った場合は自衛隊が活躍しますが、例えペイロードが1kgでも民間のドローンで空輸できるようになれば、薬などを発送から10時間以内程度で届けることが可能となり、利便性が向上するのではないでしょうか?
ということで勝手なことを書きますと、まず伊豆諸島の島々、特にヘリ便しかない島へのドローン配送に取り組み、実績を積みます。その結果を踏まえ、小笠原諸島向けの機体を開発(衛星通信でのコントロール、夜間飛行、長距離対応などなど)し、初の1000km規模のドローン配送を実現する(2-3年後)、というプランで東京都に企画を持ち込むのは如何でしょうか?😁
2021年創業の会社ですが、2021年の実証実験に関するニュースリリースが3件ほどありました。
日経産業新聞に記事掲載されました。宮古島で開始、ドローンによるスムージーデリバリーサービス。 2021年12月16日
岡山県和気町とヤマト運輸が行うドローンによる医薬品輸送 2021年12月16日
WingcopterはVTOL型固定翼ドローンを開発、製造するドイツ企業です。2021年にANAと業務提携、2022年に伊藤忠商事とパートナーシップ契約を行い、日本国内でもWingcopter製のドローンが実証実験に使われる様になっています。
- 外形寸法:167cm x 198cm x 66cm
- 動力:バッテリーのみ
- 最大離陸重量:25kg
- 最大ペイロード重量:最大5kg
- 航続距離:110km(ペイロードなし)、75km(5kg)
- 航続時間:不明
- 最大速度:144km/h
- 巡航速度:100km/h
- 最大高度:5000メートル
- 価格:不明
ドイツだけでなく、米国、そして日本など広く実証実験に利用されているモデルです。本モデルの特徴ですが、3つの荷物を別々の場所に落とすことができる機能があること、そして他のモデルと比較すると耐風性能が15m/s(突風20m/s)と比較的高くなっていることが挙げられます。一般的に耐風性能は10m/sとかですもんね。
最近だとこんなこともやっています。
伊藤忠、独最新eVTOLドローンによる血液製剤輸送の実証実験 ドローンジャーナル 2023年6月7日
何というか、グローバルで実績も多く手堅いモデルという感じですね。日本国内でも第一種型式認証を取得する、という記事もありました。固定翼を持つドローンで第一種型式認証取得しているものはなかったと思いますが、米国FAAの方でも認証を取るとのことなので、FAA側で先に認証が出れば国内の認証もスムーズに出る気がします。FAAがOKを出して、国交省がNGを出すことはないでしょう。
次世代機というかは微妙ですが、動力に水素を利用した航続距離が長いモデルの開発も進められているそうです。
配達用ドローンに水素パワーを。独WingcopterとZALが共同開発スタート ドローン 2023年3月23日
最後はドローンメーカーではなく、日本国内でクジラなどの海棲哺乳類の研究、調査を行っている日本鯨類研究所です。日本鯨類研究所は従来目視で行ってきた調査にドローンを活用するため、独自のドローンの開発を進めています。そして開発されたドローンが先日開催されたJapan Drone 2023で展示されていたようです。
- 全長:1.9m
- 翼長:3.3m
- 動力:モーター(バッテリー&水素)
- 本体重量:21.3 kg
- 最大ペイロード重量:不明
- 航続距離:200km(ペイロード10kg時)
- 航続時間:不明
- 最大速度:不明
- 巡航速度:不明
- 最大高度:不明
- 価格:不明
こちらは既に実績のある「飛鳥 改五」の改良版で、バッテリーのみから燃料電池方式を採用、航続距離を100kmから200kmに航続距離を長くする計画です。
※動画は「飛鳥 改五」の紹介動画となります。
まとめ
最後に簡単にまとめですが、やはりVTOL型固定翼ドローンはマルチコプター型のドローンと比較すると、開発しているメーカー、そしてモデルが非常に少ないですね。ただ、マルチコプター型と比べると航続距離、飛行時間が長いため、例えば捜索、測量や長距離配送には固定翼ドローンの方が向いている気がします。一方で基本的に静止していることが多い鉄塔やトンネルなどの構造物の点検、撮影位置があまり動かない上空からの撮影、短距離配送についてはマルチコプター型の方が向いている気がします。このあたりは有人のeVTOLと同じ感じですね。
有人のeVTOLと同じというように考えると、やはりネックになるのは構造の複雑性や価格がマルチコプター型と比較し、高価になってしまう、といった点でしょうか。ただ、今後ドローン向けの型式認証取得が進むようであれば、認証取得にそもそもコストが多くかかため、特に第一種型式認証取得ドローンモデルなどでは価格差(割合)は減るかもしれません。
もう1つ、スキャンイーグルのようなカタパルト発射式や滑走路が必要な固定翼タイプのドローンとの比較があります。これらのタイプと比較した場合、VTOL型固定翼ドローンはなんといっても垂直離着陸ができることが大きな強みです。陸上自衛隊はスキャンイーグルを導入していますが、絶対にVTOL型固定翼ドローンの方が便利だと思いますね。もちろん、現行のモデルでは飛行時間まだまだ敵いませんが、開発できない話ではないと思うので資金投入して欲しいところです。
有人のeVTOLではマルチコプター型で開発すると発表したベンチャーがかなりの数いましたが、結局は固定翼有りで開発しているところが多いです。一方で無人ドローンの場合はマルチコプター型であれば比較すぐに飛ばせるレベルに持っていけるため、実際出しているメーカーは多いです。が、社会実装という意味合いでは、目視外飛行ありの高度な用途の領域ではVTOL型固定翼型が4~5割程度、マルチコプター型が5~6割程度に落ち着くのかもしれません。
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