SKYDRIVE社が今週月曜日に3つのプレスリリースを出しました。
郵船ロジスティクスとサポーター契約を締結 SkyDrive 2023.06.19
空飛ぶクルマ、仕様変更等のお知らせ SkyDrive 2023.06.19
空飛ぶクルマの製造に向け、スズキと基本合意 SkyDrive 2023.06.19
この中で注目は2つ目と3つ目のプレスリリースです。
まず2つ目のプレスリリースですが、これまで操縦士を含め2人乗りとしていた搭乗員数を3人乗りに仕様を変更すると発表しました。この変更に伴い、サイズ感なども変わってきています。
変更前後のスペックの違いをまとめます。
- 機体サイズ(全長×全幅×全高):9.4m×9.4m×2.7m→約13m×13m×3m
- 最大搭乗人数:2名→3名
- 燃料:バッテリー(電動)→変更なし
- 駆動方式:12基のモーター・ローター→変更なし
- 主要構造素材:複合材(CFRP)やアルミ合金など→変更なし
- 最大離陸重量:1,100kg→1,400kg
- 最大巡航速度:100km(対気速度)→変更なし
- 航続距離:5-10km→約15km
エンドユーザーからの要望を受けて3人乗りにしたとのことですが、これはとても良い判断だと思います。eVTOLも当面操縦士が必要になる見込みの中で、2人乗りだと1人しか輸送できないわけですからね。やはり商業運用を考えると、乗客を2人は運びたいところです。
ただ、多少伸びたものの、eVTOLとして競合しそうなモデルと比較して半分程度しか航続距離がありません。そこは引き続きこのモデルの課題だと考えます。
ここで競合モデルの仕様を確認してみます。
- 開発元:億航智能(EHang)※中国
- 機体サイズ(全長×全幅×全高):不明
- 最大搭乗人数:2名
- 燃料:バッテリー(電動)
- 駆動方式:16基のモーター・ロータ
- 最大離陸重量:不明(ペイロード220kg)
- 最大巡航速度:100km/h(最高速度は130km/h)
- 航続距離:35 km(飛行時間21分)
- 開発元:Volocopter ※ドイツ
- 機体サイズ(全長×全幅×全高):11.3m×11.3m×2.5m
- 最大搭乗人数:2名
- 燃料:バッテリー(電動)
- 駆動方式:18基のモーター・ロータ
- 最大離陸重量:900 kg (ペイロード200kg)
- 最大巡航速度:90km/h(最高速度は110km/h)
- 航続距離:35-65 km
EH216は中国メーカー製なので型式証明がどうなるか不透明です。ただ、国が主導するeVTOL関連の有識者会議に開発元のEHangが参加している状況なので、そのうち普通に証明を取りそうです。EHangは欧州でも実証実験を行っているので、EASAから型式証明が出て、国交省がそれを追証する形になると予想しています。米国で取るのは今の米中関係を見ると難しそうですし。
VoloCityはSKYDRIVEと同じく2025年の万博で飛行する予定のeVTOLで、先に2024年のパリオリンピックでも飛行する予定です。eVTOLの中では最も早く型式証明を取得する可能性がありますね。
比べてみると、恐らくですが元々もSKYDRIVEが一番重いですね。重いというのはバッテリーを多く積んでいるのからかなとも思いますが、航続距離は最も短いということで、その辺りはよくわからないです。なお、全てのスペックは開発中のものなので、今後変わる可能性があります。
この2つ目のプレスリリースにはもう1つ注目すべき記載があり、それは以下の部分です。
当社の空飛ぶクルマ”SKYDRIVE”は、大阪・関西万博での運航に向けて、2025年に耐空証明を取得し、続いて、2026年に型式証明を取得し量産およびデリバリーの開始を目指します。
元々は2025年(万博開始前)までの型式証明取得を目指していたはずですが、それを諦めて2025年の万博で耐空証明のみで飛ばすという判断に切り替えたようです。型式証明というのは航空機のモデルに対する安全性の証明で、取得のハードルが非常に高いです。耐空証明は航空機それぞれに対する証明で、型式証明を取得しているモデルであれば、一部検査が不要になります。一方で型式証明を取得していないモデルの場合、1台づつ項目を証明(検査)していく必要があります。本来、商用航空機モデルは型式証明を取得するものですが、2025年の万博までに間に合わないと判断し、個々の検査は大変になるもののハードルが少し下がる耐空証明のみで万博は飛ばすという形ですね。
以前このブログでも以下の記事で万博に間に合わないのでは?ということを書きましたが、なるほど、こう来たか、という感じです。
ちょっと変なことを書きますが、日本は「航空の安全に関する相互承認協定(BASA)」を米国、欧州と締結しています。これは今はなき三菱重工の民間ジェット機MRJ輸出のために締結されたと言われていますが、片方が発行した航空機の型式証明をもう片方が受け入れる(認定プロセスを大幅に縮小する)という協定です。つまり、SKYDRIVEのeVTOLに対して国土交通省が型式認証を発行してしまうと、協定に基づき米国、欧州の認証機関がそれを受け入れる必要が出てきてしまうんですよね。そのため国土交通省も型式認証をおいそれと発行できません。
その点、耐空証明のみであれば、この協定外の話で済むので、影響範囲は小さくて済みます。流石に事故などがあると耐空証明を出した国交省側の責任問題にもなるので簡単には出すとは思いませんが、順調に行けば2025年の万博にギリギリ間に合うように耐空証明は出るのではないでしょうか。一方で2026年に型式証明、というのは難しいかもしれません。国交省側としてはイベントも終わったし、じっくりやろうよ、となりそうですよね。
さて、次に3つ目のプレスリリースです。
こちらはeVTOLをスズキの工場で作るよ、という発表になります。詳細はこれから詰めるとのことですし、実際に稼働するのは型式証明取得の目処が立ってからになりますので、2026年以降です。
スズキは元々SkyDriveに出資をしていましたが、お金を出すだけではなく製造や人材など、もっと深く関わるつもりのようです。実は似たようなことをすでにトヨタは米国eVTOLベンチャー大手であるJoby Aviationに対して実施しています。こちらの方が大規模な感じですが。
ホンダは自分たち自身でeVTOLを作ろうとしていますが、自分たちで作らないにせよ、各社eVTOL事業に関わろうとしていますね。eVTOLは国内では「空飛ぶ車」とも呼ばれています。実際には車とは全く異なる乗り物ですが、従来の航空機と自動車の間に位置する、従来の航空機よりも気軽に乗れる乗り物にはなりそうです。そういった意味で乗り物(モビリティ)の多様化に従来の枠に囚われずに関わっていこう、としているのかもしれません。
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