火曜日, 6月 06, 2023

川崎重工の無人ヘリK-RACERと類似する航空機を比較してみる

 先日以下の記事を書きました。

川崎重工の無人ヘリK-RACERは飛び立てるのか?

K-RACERは今後の展開は色々と考えられそうですが、まずは山岳地帯の物資輸送を目的として開発が進められています。このジャンル自体がニッチなのでそこまでの競合は現れなさそうではありますが、類似する航空機にどのようなものがあるのか、また違いは何かが気になったので、比較してみたいと思います。


まずは、川崎重工が進める無人機、K-RACER-X2です。

K-RACER-X2

  • 概要:川崎重工が開発中の無人ヘリ/2026年に量産予定
  • 製造元:川崎重工(川崎重工業航空宇宙システムカンパニー)
  • 動力:エンジン
  • 最大離陸重量:650kg
  • 最大ペイロード重量:200kg
  • 航続距離:100km程度
  • 巡航速度:不明
  • ホバリング限界高度:3,100m
  • 価格:不明(開発中)

K-RACER-X1からペイロードが増加し、200kgとなりました。ちなみに現在はK-RACER-X2ですが、量産機はK-RACER-X3とか4とかになったりするのでしょうか。この無人ヘリのポイントは最大離陸重量が600kg程度、ペイロードが200kg、航続距離が100km程度の3つです。この3つと類似するモデルを比較していきます。


eVTOLとの比較

ペイロードが200kgというと、ちょうどeVTOLの2人乗りくらいにあたります。そこで、まずは現在開発が進められている2名乗りのeVTOLと比較しています。このクラスのeVTOLはマルチローター機が多いので、ヘリコプターと性能は似たものになりそうです。またこのクラスのeVTOLは物流用途にも発展する計画がすでにあります。

K-RACERと比較した場合のeVTOLのメリットとデメリットを比較してみたいと思います。

メリット

  • eVTOL自体が有人航空機として型式認証を取得するため、飛行に制限がない(K-RACERは恐らく無人地帯のみなどの制限がかかる)
  • eVTOL自体の市場が大きくなると考えられ、出荷台数が多くなる見込み。そのため、K-RACERと比較し、機体単価を抑えることができると考えられる。

デメリット

  • 無人飛行について法整備、許可が出るのは恐らく2030年代(K-RACERは2026年のサービス開始を目指している)。
  • 基本的にバッテリー稼働なので航続距離が短く、充電のために電力が必要だが山岳部で電力を確保する(特に高速充電装置)ことが難しい。

具体的な機種(モデル)を上げてみます。

EH216(Logistic)

  • 概要:EHang開発のeVOLT「EH216」の物流輸送用版
  • 製造元:億航智能(EHang)
  • 動力:バッテリー(電力)
  • 最大離陸重量:不明
  • 最大ペイロード重量:250kg
  • 航続距離:30km ※設計飛行距離
  • 最高速度:130km/h
  • ホバリング限界高度:不明
  • 価格:約4,800万円

2人乗りのeVTOLであるEH216は実用化に向けて最も進んでいるeVTOLの1つです。実際、日本国内でも何度もテスト飛行しています。ただし中国メーカーということで、米国、欧州の航空当局が型式認証をスムーズに出すかが課題になりそうです。課題はあるものの、他社のモデルと比較すると圧倒的なコストパフォーマンスなので、エントリー機として、特に安全性にある程度妥協できる物流用途では普及しそうな気がします。

SkyDrive式SD-05型

  • 概要:国内ベンチャーSkyDriveが開発する2人乗りeVTOL
  • 製造元:SkyDrive
  • 動力:バッテリー(電力)
  • 最大離陸重量:不明
  • 最大ペイロード重量:不明(2名)
  • 航続距離:10km
  • 最高速度:100km/h
  • ホバリング限界高度:不明
  • 価格:2億円

国内ベンチャーSkyDriveが開発中のeVTOLです。2025年の大阪万博での飛行を予定していますが、現時点で開発状況がよく分からないので間に合うのか?というのと、海外製と比較しコスト、航続距離に課題があると考えられるモデルです。今のところ物流用としてのリリースはありませんが、人を運ぶ用途だけだと広がりが限られるので、無事開発が進んだ暁には物流用途も発表されると予想しています。

VoloDrone

  • 概要:ドイツのeVTOLベンチャーが開発する輸送用大型ドローン
  • 製造元:Volocopter
  • 動力:バッテリー(電力)
  • 最大離陸重量:不明
  • 最大ペイロード重量:200kg
  • 航続距離:40km?
  • 最高速度:110km/h
  • ホバリング限界高度:不明
  • 価格:不明
ドイツVolocopter社が開発する物流用大型ドローンです。同社が開発する2人乗りeVTOLのVoloCityは2025年の大阪万博で飛行予定ですが、そのVoloCityとほぼ同じで物流用なのがこのVoloDroneです。限界高度が2000mという情報もあったのですが、そちらが正しければ山岳地帯での物流は難しいかもしれないですね。

ここまでK-RACERと同じ程度の性能を持つeVTOLを纏めてみました。eVTOL自体がまだ開発中で仕様が確定していない部分も多いため、実際の開発完了時にどのようなスペックで世の中にリリースされるかはまだ分かりません。ただ、これらはやはり規模の強みが出そうではあります。K-RACERがこういった出自がeVTOLベースの搬送用航空機に負けないようにするには、eVTOLの無人飛行がスタートする2030年代より前に商用の無人飛行を成功させ、多くの事例を生み出しシェアを獲得できるかにかかっていると考えます。

有人ヘリとの比較
K-RACER自体が無人ヘリなので有人機と比較するのも少し変なのですが、同等サイズの有人ヘリがあるので比較してみます。

Robinson R22
  • 概要:ロビンソン・ヘリコプターが開発する小型ヘリコプター
  • 製造元:ロビンソン・ヘリコプター
  • 動力:エンジン
  • 最大離陸重量:1370Ib(622Kg)
  • 最大ペイロード重量:515lbs(233kg) ※乗員数2
  • 航続距離:324km
  • 最高速度:83kt(153.7km/h)
  • ホバリング限界高度:14,000f(4,267m)
  • 価格:4,500万円

Robinson R44
  • 概要:R22を拡大型として開発されたヘリコプター
  • 製造元:ロビンソン・ヘリコプター
  • 動力:エンジン
  • 最大離陸重量:2,400lbs(1088Kg)
  • 最大ペイロード重量:958lbs(434kg) ※乗員数4
  • 航続距離:621km
  • 最高速度:204 km/h
  • ホバリング限界高度:14,000f(4,267m)
  • 価格:6,400万円
両方ともロビンソン・ヘリコプター製の小型ヘリ(レプシロ単発)です。比較してみるとR22の方がほぼK-RACERと同等の最大離陸重量、ペイロードとなっています。そして、航続距離は長いと。もちろんこちらは有人機でパイロットが必要となりますので、単純な比較はできません。ただ機体価格を見てしまうと、R22やR44を改造して無人飛行ができるようにする、というアプローチの方がコストメリットがあるのでは?という気もしてきますね。(実際、米軍では既存航空機の自律飛行を実現するための技術開発が進んでいるようです。)川崎重工はヘリコプターメーカーでもありますので、ヘリ本体を自社開発して技術力を維持するということも非常に重要です。そういった意味では、K-RACER開発自体の意義は非常に大きいですよね。多少失敗してもMitsubishi SpaceJetと比べればかすり傷みたいなものですし、しっかりと取り組んで欲しいと思います。

大型ドローンとの比較
ドローンも大型化し、最大離陸重量が150kg以上を超えると航空機扱いになってしまいます。そのため現在、最大離陸重量が150kg未満の無人航空機がいくつか開発されています。そのあたりは以下の記事に纏めていますので、ご参照下さい。

最大離陸重量が150kg未満となると、ペイロードは頑張って50kg程度になります。ペイロード50kg、航続距離50kmを空飛ぶ軽トラと呼んだりするようですが、そのあたりの性能がドローンとしての枠組みの限界となります。もちろんペイロードを減らして航続距離を伸ばすアプローチもありますし、そういうニーズもあると思うのですが、そうなってくるとマルチコプターやヘリコプタータイプではなく、固定翼機タイプの方がメリットが多そうです。
ここではマルチローター機やヘリコプタータイプの無人航空機をいくつかご紹介します。

  • 概要:ヤマハ発動機の大型無人ヘリ
  • 製造元:ヤマハ発動機
  • 動力:エンジン(レギュラーエンジン)
  • 最大離陸重量:110g(120kgのモデル有)
  • 最大ペイロード重量:33kg(50kgのモデル有)
  • 航続距離:90km
  • 最高速度:72km/h
  • ホバリング限界高度:2,800m
  • 価格:不明(レンタル/業務委託のみ 2017年4月〜)
ヤマハ発動機はかなり以前より農業用などの無人ヘリを世に出しているパイオニア的な存在です。そのヤマハ発動機が出している最大サイズの無人ヘリがこのシリーズです。価格は不明なのですが、前モデルのFAZER R G1で1億3千万円~という価格だったので、こちらもかなり良い値段だと推測されます。K-RACER-X2の予定仕様と比較すると航続距離、高度は同等だけれど、ペイロードがかなり減る、ということになります。従ってK-RACERとは物流用途ではあまり競合しませんが、例えば測量など荷物を運ぶ以外の用途では競合となり得るモデルです。

  • 概要:ロケット開発などを手掛けるIHIエアロスペースが開発中の大型ドローン
  • 製造元:IHIエアロスペース
  • 動力:エンジン(ハイオクガソリン)
  • 最大離陸重量:149kg
  • 最大ペイロード重量:47kg
  • 航続距離:50km
  • 巡航速度:60km/h
  • ホバリング限界高度:3000m
  • 価格:不明(開発中)
IHIが開発中の大型ドローンです。まさにペイロード50kg/航続距離50kmという性能で、K-RACERをこじんまりさせた性能となっています。ただ、ドローンの枠にギリギリ入るモデルなので、K-RACERと比較した場合、価格的なメリットが出る可能性があります。

  • 概要:会沢高圧コンクリートが開発した大型ドローン
  • 製造元:アラセ・アイザワ・アエロスパシアル合同会社
  • 動力:エンジン
  • 最大離陸重量:310kg
  • 最大ペイロード重量:150kg(積載量+燃料重量で200kg以下)
  • 航続距離:不明(ペイロードなし:航続時間6時間以上/ペイロード150kg:航続時間2時間以上)
  • 巡航速度:不明
  • ホバリング限界高度:不明
  • 価格:不明(開発中)
先程から最大離陸重量150kg未満、と説明していますが、それを無視したドローンもあります。それが会沢高圧コンクリートという土木系企業が開発した大型ドローン「AZ-1000」です。元々、最大離陸重量150kg未満のAZ-500というモデルを開発していたのですが、更に大型のモデルを作ってみました、という代物です。建設現場などでの利用を想定していると思われますが、型式認証とかどうするんだろう?と思うところです。まあ、その辺を気にしなければ、とても面白い機体ですよね。楽しく作ってます、という雰囲気を感じます。なお、性能的にはK-RACERとかなり近い気がしますね。実用化までこぎ着けることができれば、ですが。(K-RACERもまだ開発中ですけど。)
ちなみにですが、この機体のエンジンを開発したのはスズキのバイク「隼」のエンジンを開発された方だそうです。K-RACER もエンジンにカワサキのバイク「Ninja H2R」のエンジンを流用していますし、バイクのエンジンは軽くてハイパワーなので航空機のエンジンに通じるものがあるのかもしれませんね。

さて、ここまで色々と比較をしてみましたが、有人ヘリは置いておいて、eVTOL系と大型ドローン系はまだまだ開発中のものが多いですね。やはり実用化が早いものがシェアを取っていく気がします。K-RACERを含め様々なモデルが2020年代後半に実用化予定となっていますので、引き続き注目していきたいと思います。

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