先に箇条書きにしておくと、今回紹介するVMware vSphereの利用方法は以下のとおりです。
- 物理サーバとVMware vSphereライセンスを購入し、仮想基盤を構築する(オンプレ型)
- ハイパーコンバージドインフラ(HCI)を購入し、仮想基盤を構築する(オンプレ型)
- 基盤がVMware vSphereで稼働しているIaaSを利用する(クラウド型)
- VMware Cloud Foundationを利用したクラウドサービスを利用する(クラウド型)
- サブスクリプション形式で提供されるマネージド型インフラをオンプレミスに配置する(オンプレサブスクリプション型)
では、1つづつ解説していきます。
なお、参考で費用を入れていますが、単純比較するには考慮事項が色々と足りていない費用です。規模感を把握するための記載しているとご理解頂ければと思います。
1.物理サーバとVMware vSphereライセンスを購入し、仮想基盤を構築する(オンプレ型)
VMware vSphereを導入するための物理サーバを購入し、そこにVMware vSphere ESXiを導入して仮想基盤を構築します。冗長構成にしたい場合は共有ストレージを構成に入れるか、最近だとvSAN(VMwareのストレージ仮想化技術)を利用するという手もあります。これは従来からの最もオーソドックスなVMware vSphereの利用の方法となります。設置場所は自社建屋でもデータセンタでも良いですし、費用の支払いも初期一括でもリースという手もあります。分類分けがややこしくなるのですが、データセンタでのホスティングも一旦こちらのグループに入れておきます。
ポイントとしては、物理サーバとVMware vSphereのライセンスをそれぞれ購入し、個別に構築する、という点ですね。
- 費用
- 数十万円~(ハードウエア/ソフトウエア費用)※構成により大きく変わる
- メリット
- 物理機器を個別で用意するため、構成を自由にカスタマイズできる
- 初期でサーバ費用、ライセンスを支払えばランニングを抑えることができる
- デメリット
- 物理機器、VMware vSphereの運用管理を行う必要がある
- 仮想基盤の個別構築となるため、環境構築費用が高くなる(特に構成が複雑になると)
- ハード保守期限のたびに環境の再構築、移行が必要
2.ハイパーコンバージドインフラ(HCI)を購入し、仮想基盤を構築する(オンプレ型)
数年前から流行りだしたハイパーコンバージドインフラ(HCI)。元々コンバージド(垂直統合型)インフラというのが用途に応じてすぐに使えるようにセットになっているサーバ、ストレージの纏まりのことで、VMwareなどの場合はすぐに使える仮想基盤セットみたいなもののことを示します。これがハイパーコンバージドになると、ストレージ部分がストレージ装置ではなく、サーバの内蔵ディスクを仮想的に共有ディスクとして見せたりするソフトウエア技術利用し、集約、低価格化がより進んだ仮想基盤セットのことを示しています。
恐らく最も有名なのはNutanixでしょう。Nutanix社はGoogleでデータセンタの設計を行っていたエンジニアが参画して出来た会社で、Googleが構築している巨大な仮想基盤を一般ユーザでも利用できるようにしようとして開発されたのが、HCIであるNutanixです。NutanixはVMware以外にもHyper-Vや独自のハイパーバイザ(仮想化ソフト)を選択することが可能です。今はNutanix以外にも、CiscoやDELL、HP、富士通、NECなどからもHCIは提供されていますね。Nutanix、Ciscoなどはストレージ冗長を独自技術でやっていますが、富士通などはVMware標準のvSANを利用しています。
HCIは最低でも物理サーバ3台構成(4台以上が推奨のものもあります)となるため、それなりの規模でないと適用できません。仮想サーバが数台程度であれば、前述の従来型の仮想基盤を構築したほうが安いです。ただし、それなりの規模になると、従来型に比べてかなり安くなります。従来型だとストレージ装置を入れる必要があったり、個別構築が発生しますからね。以前は多くの物理リソースが必要となるVDI環境で利用されているイメージでしたが、現在は色々な環境で利用されているようです。
- 費用
- 1,500万円~(ハードウエア/ソフトウエア費用)※最低費用が比較的高い
- メリット
- 従来型の仮想基盤構築と比較し、機器費用、導入作業費用を抑えることができる
- 製品、エディションにもよるが、後から簡単に物理サーバを増やしてリソースを増強することができる(出来ないものもあるので、注意!)
- デメリット
- 最小構成でも規模が大きくなるため、小規模の仮想基盤構築には適さない
- 構成パターンが決まっているため、仮想基盤に対して細かなカスタマイズを行うことが出来ない(今どき細かいカスタマイズは不要だとは思いますが。)
- 物理サーバの保守切れのたびに、物理サーバの導入と移行作業が必要となる(ただし、移行作業は従来の個別構築に比べて楽というのが売り)
3.基盤がVMware vSphereで稼働しているIaaSを利用する(クラウド型)
単純にVMwareを利用するというのとは少し異なりますが、仮想化技術としてVMwareを採用しているIaaS(ニフクラや、ソフトバンクのホワイトクラウドなど)を利用するという方法があります。ニフクラなどではVMware環境自体をユーザが弄ることは出来ませんが、例えば現行で数台だけVMware環境に仮想サーバが存在し、それをそのまま延命したい、といった場合に、既存環境からovf形式で出力してIaaSにインポートすることが出来ます。最近だとAWSやAzureでもVMware環境からのマイグレーションツールを利用して仮想サーバの移行をする、ということも出来ますが、やはりVMware同士のほうが多少安心かなとは思ったりします。
- 費用
- 数千円/月(IaaS利用料)~ ※構成により大きく変わる
- メリット
- IaaSなので仮想サーバ1台といった小規模から利用できる
- クラウドサービスなので、仮想基盤の構築が不要
- クラウドサービスとして利用できるため、運用負荷を押させることができる
- VMware同士なので、仮想サーバをエクスポート、インポートといった移行をすることができる
- デメリット
- VMware自体はクラウド事業者が管理するため、設定の変更やvCenter画面の確認などを行うことが出来ない
4.VMware Cloud Foundationを利用したクラウドサービスを利用する(クラウド型)
話が少し逸れますが、元々この記事を書こうと思った発端は、VMware Cloud Foundationを利用したサービスについて纏めようと思ったからです。こちらの纏めは別途記事にするとして、VMware Cloud Foundationについて少しご紹介します。
VMware社はIaaSを中心としたクラウドサービスが流行りだしたタイミングで、自社のクラウドサービスをスタートしました。それが、「vCloud Air」です。日本国内にもロケーションがありましたね。しかし、VMware社は2017年にこのサービスを売却します。そして、マルチクラウド、ハイブリッドクラウド戦略に移行します。そして登場したのが「VMware Cloud Foundation」です。これはざっくり言うと、クラウドサービスで用意されるベアメタル(物理サーバ)環境を利用して、VMware vSphereの仮想基盤をサービスとしてユーザが利用できるようにするための製品、サービス群です。このベアメタル環境を用意するクラウドサービスはどこでも良いのでマルチクラウドを実現できますし、クラウド上に構築したVMware仮想基盤をオンプレ環境のVMware仮想基盤と繋げば、仮想サーバをオンプレ、クラウド間で自由に移動することも可能、つまりハイブリッドクラウド環境を実現できる、というのが売りです。
「VMware Cloud Foundation」を利用したサービスで最も有名なのは「VMware Cloud on AWS」ではないでしょうか。他にも、Azure、GCP(Google)、IBM、富士通などが各社のクラウドサービス上で「VMware Cloud Foundation」を利用したサービスを提供、もしくは今後提供する予定です。Oracleも最近提供を発表しましたね。
この方法の最大のメリットは、各クラウドサービス環境でVMwareを利用できる、ということです。例えば、現在基幹システムをオンプレのVMwareを利用した仮想基盤上で運用している場合、この環境を「VMware Cloud on AWS」に移行し、基幹システムはそのままに、AWSのAIやサーバレスの機能と連携させる、といったことが可能になります。勿論、オンプレのままでも出来ないことはないですが、ネットワーク的な近さは処理遅延に大きく関わってきますからね。
一方、デメリットについてはHCIと似ていて、最小構成が物理サーバ3台(4台のサービスも)となっているため、小規模な仮想環境用途には向いていません。
- 費用
- 1,000万円/年(IaaS利用料)~ ※構成により大きく変わる
- メリット
- クラウドサービスなので、仮想基盤の構築が不要
- クラウドサービスとして利用できるため、運用負荷を押させることができる
- 専用のVMware仮想基盤であるため、vCenterなどを利用することが可能(VMware自体の設定変更は制限あり)
- AI、IoT、サーバレスなどのクラウド機能との連携が容易になる
- デメリット
- 最小構成でも規模が大きくなるため、小規模の仮想基盤構築には適さない
- 構成パターンが決まっているため、仮想基盤に対して細かなカスタマイズを行うことが出来ない(今どき細かいカスタマイズは不要だとは思いますが。)
5.サブスクリプション形式で提供されるマネージド型インフラをオンプレミスに配置する(オンプレサブスクリプション型)
これはまだサービスとしては恐らくまだ提供されていませんが、幾つかのサービスが提供を予定されています。代表的なものがAWSの「AWS Outposts」、DELL EMC(VMware)の「VMware Cloud on Dell EMC」です。
これらはどういったものかと言うと、ユーザのデータセンターにオンプレの仮想基盤が提供され、それをサブスクリプション形式で利用するというものです。仮想基盤はユーザのデータセンタに配置されますが、各種保守はサービスとして提供されます。恐らく、リモート保守でVMwareに対するパッチ適用なども行われるのでしょう。
こういった試みは既にあって、例えばOracleがやっているOracle CloudやExadata をユーザのデータセンタで動かし、メンテナンスはOracleで実施する「Oracle Cloud Machine」、「Oracle Exadata Cloud at Customer」といったものと同様です。
個人的に面白いなと思うのは、代表的な2つのサービスがクラウドを代表するAWSとハートメーカーを代表するDELL EMCからそれぞれ提供されていることです。AWSはクラウドサービスのオンプレ分野への進出を図り、DELL EMCはオンプレ分野防衛のため、クラウドのサブスクリプション的な利用方法をオンプレに取り入れた、というところでしょうか(VMwareはDELL EMCの子会社です)。
この提供方式は正直そこまで流行らないとは思っています。利用するのは、セキュリティの都合上などでどうしても自社データセンタに置きたいユーザくらいではないでしょうか?これのためにデータセンタを契約し、このサービスを利用するというのは、あまりメリットがないと思います。
- 費用
- ??万円~ ※最低費用は比較的高いと思われる
- メリット
- 構築済みの環境が用意されるため、構築作業などは不要
- 仮想基盤の運用はサービス側で実施してくれるため、ユーザ側では不要
- 自社のデータセンタなどに配置可能で、厳しいセキュリティ要件に対応できる
- デメリット
- 最小構成でも規模が大きくなるため、小規模の仮想基盤構築には適さない
- 構成パターンが決まっているため、仮想基盤に対して細かなカスタマイズを行うことが出来ない(今どき細かいカスタマイズは不要だとは思いますが。)
- 設置場所はユーザ側で用意する必要がある
ということで、5パターンを簡単ではありますが、纏めてみました。「VMware Cloud Foundation」を利用したクラウドサービスについては、別途各社のサービスを比較する記事を書きたいと思っています。
インフラ系の技術というのは数年後に何がトレンドになっているか分からない世界ではありますが、VMwareはまだ暫く仮想化技術の中心の1つであり続けるでしょうね。本当に、VMware社が自社クラウドを止めて様々なクラウドと手を組む、とした戦略変更をしたことは凄いと思います。何せ、VMwareは世界最大手のストレージメーカであるDELL EMCの子会社ですし、世界を代表するサーバメーカDELLの孫会社ですからね。将来のために親会社たちのライバルと手を組む、という決断ができるのは、やはりアメリカの経営者だからということでしょうか。未だに国産クラウドが乱立している状況を見て、そんな風に思ったりします。
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