〖2025年7月版〗国産クラウド(IaaS)最新動向まとめを公開してから約10ヶ月が経ちました。この間、国産クラウドとしては初めて「さくらのクラウド」がガバメントクラウドに正式採択されるという歴史的な出来事があり、富士通やソフトバンクがOracle Alloyを基盤とするソブリンクラウドを相次いで立ち上げるなど、国内クラウド市場の地図が大きく塗り替わりました。また、MicrosoftやGoogleが日本への大規模投資を相次いで発表し、AI対応型インフラの整備が急加速しています。本稿では2026年5月時点の主要IaaS事業者の動向を、2025年7月版との差分を意識しながら整理します。対象は2025年7月版とは異なり、国内外を問わず日本市場で存在感を持つIaaSを広くカバーします。
日本のクラウド市場概況(2025〜2026年)
矢野経済研究所が2026年に発表した調査によると、2025年の国内クラウド基盤(IaaS/PaaS)市場規模は前年比約19%増の2兆7,100億円で、2029年には5兆2,200億円に達するとしています(CAGR約18%)。IDC Japanの集計ではIaaS・PaaS・ホスティング型プライベートを合算した2024年の国内パブリッククラウド市場は4兆1,423億円(前年比26%増)で、2029年には8兆8,164億円に拡大する見通しです。また、IDCは2026年の国内AIインフラ市場を約55億ドル(約8,300億円)と試算しており、2030年には1兆円を突破するとみています。成長を牽引するのは生成AI需要、基幹系のクラウド移行、そしてBroadcom傘下となったVMwareのライセンス体系見直しに伴う代替需要の三本柱です。
ガバメントクラウドとISMAP — 2025年7月版からの最大の変化
2026年3月27日、デジタル庁は「さくらのクラウド」がガバメントクラウドの全技術要件305項目を充足したことを確認し、令和5年度・令和8年度の双方でガバメントクラウドサービス提供事業者として正式採択したと発表しました。これにより2026年度のガバメントクラウド対象はAmazon Web Services・Google Cloud・Microsoft Azure・Oracle Cloud Infrastructure・さくらのクラウドの5サービスとなり、国産クラウドはさくらのクラウドが唯一の座を占めます。さくらインターネットの田中邦裕社長は「日本の行政におけるクラウドの選択肢を広げるとともに、日本のデジタル基盤の自律性と持続性を高める一歩」とコメントしています。
2023年11月に条件付きで採択されてから約2年半、さくらインターネットが国内各所から「ぜひ実現してほしい」という声を受けながら開発を続けてきた成果です。正式採択と同時に、石狩第3ゾーンを活用した法人向けキャンペーンも開始されました。ISMAPクラウドサービスリストはデジタル庁が2025年11月・2026年3月に更新し、Salesforceの「Agentforce」を含む複数製品が新規追加されています。
〖ハイパースケーラー〗
AWS(Amazon Web Services)
AWSジャパンは2024年1月に発表した「2023〜2027年で2兆2,600億円を東京・大阪リージョンに投資する」計画を継続中です。2011〜2022年の累計1兆5,100億円と合わせると、2027年までの国内クラウドインフラ投資総額は約3兆7,700億円に達する見込みです。2024年11月には長崎忠雄前社長に代わり白幡晶彦氏が代表執行役員社長に就任し、2026年1月には「For Japan, For Society Leaping Ahead」を2026年の新戦略として打ち出しました。
サービス面では2025年12月、Oracle Database@AWSが東京リージョン(ap-northeast-1)で一般提供(GA)を開始しました。東京リージョン内のapne1-az1とapne1-az4で利用でき、Oracle ExadataデータベースをAWSのインフラで動かしながら、データを日本国内に置き続けることが可能になりました。生成AI向けのAmazon Bedrockも日本リージョンで提供済みで、引き続き先行投入が続いています。障害面では2025年4月に東京リージョンで約1時間の一時的な接続障害が発生し、同年10月には米国バージニア北部を震源とするグローバル規模の障害が起きています。いずれも長期化は免れましたが、グローバルコントロールプレーンに依存するサービスを利用している場合のリスクとして改めて意識されました。
Microsoft Azure
Microsoftは2026年4月3日、「技術」「信頼」「人材」の3本柱を軸に2026〜2029年の4年間で日本に100億ドル(約1兆6,000億円)を投資する計画を発表しました。副会長兼社長のブラッド・スミス氏が来日し、高市早苗首相を表敬訪問した際に公表されたものです。2024年4月の29億ドル投資発表に続く追加コミットメントで、規模は3倍超に拡大しています。
技術面では、さくらインターネットおよびソフトバンクと連携し、日本国内にデータを置いたままAzure経由でGPU計算資源を利用できる「主権AIスタック」の整備を進めます。信頼面では国家サイバー統括室や警察庁との官民連携によるサイバー防衛強化を明示しています。人材育成では、NTTデータ・ソフトバンク・NEC・日立・富士通の5社と協力し、2030年までに日本で100万人のエンジニア・開発者育成を目指します。なお、2024年4月の投資発表以降、同社は日本で340万人以上のAIスキル習得を支援しており、当初の目標300万人を超過達成しています。
Google Cloud
千葉県印西市に国内初のGoogle Cloud専用データセンターが2024年に稼働し、東京・大阪リージョンでのサービス品質が向上しています。2025年6月にはOracle Database@Google Cloudが東京(Asia-Northeast 1)で提供を開始し、Google Cloud Marketplace経由のリセラー販売にも対応しました。生成AI分野では2026年4月のGoogle Cloud Nextでベルリン・セメラー型AIエージェント基盤と新型チップTPU 8(学習用8t・推論用8i)を発表し、クラウド収益は前年同期比48%増(Q4 2025、177億ドル)と急成長しています。
設備投資は急拡大しており、2025年通期CapExは約900億ドル(前年比約2倍)、2026年は当初1,750〜1,850億ドルのガイダンスを示しましたが、2026年4月29日のQ1 2026決算で1,800〜1,900億ドルに上方修正されています。Alphabet年次報告書(2026年4月)では「2025年の約900億ドルの2倍」と表現されており、AIインフラ需要が旺盛なことを裏付けています。
Oracle Cloud Infrastructure(OCI)
東京・大阪の2リージョン体制を継続強化しており、2025〜2026年にかけてWebLogicマネジメント、Compute E6 Standardシェイプ、Batchサービスなどを国内リージョンで順次提供開始しています。Oracle Database@AWSが東京でGAとなったことでマルチクラウドDB移行がより現実的な選択肢となりました。国内における大型導入事例では長野県信用組合や荏原製作所、ニッセイ・ウェルス生命などの勘定系・基幹系移行案件が続いています。2024年4月に発表した「向こう10年で80億ドル超の日本投資」計画は継続中で、Oracle Alloyを通じたソブリンクラウドパートナー戦略の拡大も進んでいます(後述)。
〖国内クラウド事業者〗
さくらインターネット — さくらのクラウド(歴史的な転換点)
2026年の国内クラウド市場における最大のニュースは、3月27日のさくらのクラウドのガバメントクラウド正式採択でしょう。2023年11月の条件付き採択から約2年半を経て305項目すべての技術要件を充足し、国産クラウドとして初めて本番環境での提供が可能となりました。政府・自治体のシステムをさくらのクラウド上に構築する選択肢が事実上解禁されたことは、これまで外資4社が独占していた公共クラウド市場の構造を変える出来事です。日経Xテックや時事通信は「国産AI推進という政府方針との親和性が高い」と評価しています。
GPU基盤の「高火力」シリーズも急速に拡充されました。2024年8月にNVIDIA H100を2,000基整備し、2025年8月にはBlackwell世代のNVIDIA B200を搭載した「B200プラン」を提供開始(初期400基・最終1,500基規模を計画)。2025年9月にはマネージドスパコン「さくらONE」(H200×55台)を、同10月にはB200×48台(384 GPU)構成も追加しました。2025年9月には石狩データセンターに第3ゾーンを新設し、ガバメントクラウド向けの大規模受け入れに備えています。2024年度〜2030年度で1,000億円規模のGPU投資を計画しており、経済産業省のクラウドプログラムが50%助成しています。
富士通 — FJcloud-VとFujitsu Alloyの並列体制
2024年4月にニフクラをFJcloud-Vに統合済みで、VMware vSphereベースのIaaSとして継続提供されています。2025年7月にBroadcom社によるVCSPパートナー契約の見直しが行われましたが、富士通は継続認定を受けています。既存のVMware資産を抱える企業の移行先として引き続き有力な選択肢です。
最大の新展開は、2025年4月14日に「Fujitsu クラウドサービス powered by Oracle Alloy」(富士通ソブリンクラウド)の国内提供を開始したことです。富士通のデータセンター内に置いたOracle Alloy基盤上で、OCI互換の100以上のサービスを利用できます。日本のソブリン要件に合わせ既存OCIの機能に加えて106の機能を実装しており、データ・運用・法的・セキュリティの4つの主権に対応します。今後3年間で100社への導入を目標としており、発表以降200社超から問い合わせがあったとしています。2025年7月24日にはグランドオープンイベントを開催し、経産省AI産業戦略室の渡辺室長が講演しました。同年10月にはPwC Japanと協業し、経済安全保障推進法「基幹インフラ役務」制度に対応するリファレンスガイドを2025年12月に公開しています。なお、FJcloud-VとFujitsu Alloyは「後継・先代」の関係ではなく、用途が異なる並列ラインアップです。FJcloud-VはVMware既存資産の移行に、Fujitsu Alloyはミッションクリティカルなソブリン要件対応に、それぞれ重点を置いています。
NTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)— Smart Data Platform(SDPF)
2025年7月1日、NTTコミュニケーションズはNTTグループの組織再編に伴い「NTTドコモビジネス株式会社」に社名を変更しました。同時にNTTコムウェアも「NTTドコモソリューションズ」に改称しています。クラウドサービスはSmart Data Platform(SDPF)クラウドとして継続提供されており、ISMAPへの登録も継続しています。
2025年6月にはNTTドコモビジネス・ゲットワークス・NTTPCの3社が「AI-Centric ICTプラットフォーム構想」として戦略的業務提携を締結し、水冷GPUサーバーを活用したAI計算基盤の整備を進めています。NTTグループ全体では、2026年4月27日にデータセンターの消費電力容量を2033年度に現在の約3倍超(約1GW)へ拡張する計画を発表しました。NTTの島田社長は「推論用途の裾野が広がっている」とAIインフラ拡張の理由を説明しています。
KDDI — KCPS刷新とGPU Cloud
2025年12月19日にKDDIクラウドプラットフォームサービス(KCPS)を全面リニューアルし、フラッシュドライブへの移行によるストレージ性能向上、最大32vCPU/512GBのハイスペックメニュー追加、PaaS機能の拡充を図りました。ただしKCPS Ver.2は2026年3月31日をもって新規申込受付を終了しており、現在は後継の「KDDI GPU Cloud」への移行を推進しています。KDDI GPU Cloudは大阪堺データセンターにNVIDIA GB200 NVL72を採用した構成で、2026年4月から申込受付を開始しました。KCPSとの閉域連携に対応しており、既存KCPSユーザーからのスムーズな移行を支援します。ISMAP登録(C21-0010-2)は継続しており、KDDIアイレットを通じてガバメントクラウドの運用管理補助者の役割も担っています。
ソフトバンク — Cloud PF Type A(Oracle Alloy採用)
ソフトバンクは2025年10月8日にOracle Alloyを採用したソブリンクラウドサービス「Cloud PF Type A」を2026年4月から提供すると発表し、2026年4月1日に東日本リージョンでの提供を正式開始しました。西日本リージョンは2026年10月開始予定です。OCI互換の200種類以上のサービスに対応し、日本国内のソフトバンクデータセンターでデータの所在・管理・運用を完結させます。セキュリティ面ではOracle KMS VaultとソフトバンクKMSの組み合わせ、ネットワーク面ではOnePort・SmartVPNによる閉域接続を提供します。
2026年4月16日には、SB Intuitionsが開発した国産LLM「Sarashina」を活用した生成AIサービスを同年6月から順次提供開始すると発表しました。Sarashina AIサービスの提供開始は4月ではなく6月からである点に注意が必要です。また、MicrosoftとはAzure経由でソフトバンクのGPU計算基盤を利用するソリューションの共同開発を2026年4月3日に発表しており、主権AIスタック構築の観点からも注目されています。既存のホワイトクラウドASPIREはISMAP登録・VMware Sovereign Cloud認定を継続しています。
IDCフロンティア — IDCFクラウド
国内15ゾーン・SLA 99.999%の体制を継続しています。GPU基盤では2025年から推論用GPUクラスタの提供事例が増えており、デジタルダイナミックやモルゲンロットとの事業提携を通じてIDCフロンティアのデータセンターを活用したGPU環境の導入が進んでいます。2025年12月には大規模な推論AI向けGPUクラスタの導入事例を公開しました。AWS・Azure・Google Cloud等との閉域接続サービスは継続提供しており、マルチクラウド構成の「ハブ」としての役割も担っています。
ソブリンクラウドの競合構図
2025〜2026年にかけて最も急速に立ち上がったのがソブリンクラウド(データ主権クラウド)の市場です。大きく分けると、Oracle Alloyを基盤とした陣営(富士通・ソフトバンク・NTTデータ・NRI)と、さくらのクラウド(完全国産)、そしてMicrosoftの「主権AIスタック」(さくら・SBと連携)の三極構造が形成されています。富士通・NTTデータ・NRIはそれぞれミッションクリティカル系・SI系の既存顧客基盤を持ちながらOracle Alloyを採用しており、中央省庁・金融・製造業の基幹系クラウド移行を主なターゲットとしています。一方、さくらのクラウドはガバメントクラウド正式採択という裏付けを持ち、地方自治体や省庁のシステム基盤として純国産という訴求力を最大の武器としています。
AI規制の動向 — AI推進法の施行
日本初のAI分野特化法となる「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号、通称:AI推進法)が2025年5月28日に成立し、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行されました(内閣府公式)。同日、内閣総理大臣を本部長・全閣僚を構成員とするAI戦略本部が設置され、9月12日に初会合が開かれています。石破総理(当時)は「国家戦略として省庁横断でAIによるイノベーションを本格的に推進する」と述べ、AI基本計画の策定を指示しました。
同法は罰則を伴わない基本法的性格で、EU AI Actのような直接規制とは異なります。活用事業者の責務(第7条)や国による調査・指導・助言の仕組みを規定し、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」を目指す方向性を明示しています。クラウド事業者にとっては、AIサービスを提供する際の透明性確保や不適切利用への対応体制が今後のガイドラインで具体化されていく可能性があるため、動向を注視する必要があります。
まとめ
2026年5月時点の国内IaaS市場は、「AI対応」「データ主権」「ガバメントクラウド」の三つのキーワードで動いています。さくらのクラウドのガバメントクラウド正式採択、富士通・ソフトバンクのOracle Alloyソブリンクラウド提供開始、MicrosoftやOracleの巨額の日本投資、そしてAI推進法の全面施行と、2025年7月版からの10ヶ月間は国内クラウド史上でも有数の変化の多い期間でした。
選定の指針としては、公共・自治体システムには5社体制となったガバメントクラウドの中でさくらのクラウドも有力な選択肢として評価すること、ミッションクリティカルな機密系システムにはFujitsu Alloy・ソフトバンクCloud PF Type A・NTTデータAlloy・NRIAlloyなどOracle Alloy系を本命として検討すること、生成AI・LLM基盤にはさくら高火力PHY B200・KDDI GPU Cloud(GB200)・ソフトバンクCloud PF Type A(Sarashina、6月〜)を比較すること、が実務的なアプローチとなりそうです。VMwareの既存資産を抱える場合は、BroadcomのVCSP認定を継続しているFJcloud-V・IIJ GIO P2 Gen.2・ホワイトクラウドASPIREを優先候補とすることも引き続き有効です。
なお、本稿は2026年5月25日時点の公開情報をもとに作成しており、Microsoftの100億ドル投資の詳細な実施内容、ガバメントクラウド要件緩和の最終ルール(複数サービス組み合わせによる充足を許容する方向性が打ち出されているが最終確定前)、各社GPU調達状況など、今後の公式発表で変わる可能性がある事項を含みます。引き続き最新の公式発表を確認してください。
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