水曜日, 6月 24, 2026

【2026年6月版】TOP500スーパーコンピュータ最新ランキング徹底解説 ― 中国「LineShine」が世界首位、CPUのみで2エクサフロップス突破

📊 2026年6月23日(ISC 2026 ハンブルク)発表 ― 第67回 TOP500 速報レポート

はじめに ― 中国が9年ぶりに世界首位を奪還

2026年6月23日、ドイツ・ハンブルクで開催されているISC High Performance 2026カンファレンスで、第67回 TOP500リストが発表された。最大のニュースは、中国・深圳の「LineShine(霊晟)」がHPLベンチマーク2.198 EFlop/sを記録し、米国のEl Capitanを抜いて世界首位を獲得したことだ。中国システムの首位獲得は2017年の神威・太湖之光(Sunway TaihuLight)以来、実に9年ぶりである。

さらにLineShineは、GPUなどのアクセラレーターを一切使わずに2 EFlop/sを超えた史上初のシステムという点でも歴史的な意義を持つ。この事実は輸出規制下での中国の技術的自給自足の象徴として、国際的に大きな注目を集めている。

Top 10 ランキング(2026年6月版)

順位 システム名 設置機関・国 Rmax (HPL) 主要アーキテクチャ 前回比
🥇 1 LineShine(霊晟) 国家超算深圳中心(NSCS) / 🇨🇳 中国 2,198 PFlop/s LingKun / LX2(ARMv9 304C 1.55GHz)/ LingQi / Kylin OS 🆕 NEW
🥈 2 El Capitan LLNL / 🇺🇸 米国 1,809 PFlop/s HPE Cray EX255a / AMD EPYC 4th Gen + Instinct MI300A ↓1(前回1位)
🥉 3 Frontier ORNL / 🇺🇸 米国 1,353 PFlop/s HPE Cray EX235a / AMD EPYC 3rd Gen + Instinct MI250X ↓1
4 Aurora アルゴンヌ国立研究所 / 🇺🇸 米国 1,012 PFlop/s HPE Cray EX / Intel Xeon Max + Data Center GPU Max 変動なし
5 JUPITER Booster EuroHPC / ユーリッヒ研究センター / 🇩🇪 ドイツ 1,000 PFlop/s Eviden BullSequana XH3000 / NVIDIA Grace Hopper GH200 ↓1
6 HPC7 Eni S.p.A. / 🇮🇹 イタリア 571.5 PFlop/s HPE Cray EX255a / AMD EPYC 4th Gen + Instinct MI300A 🆕 NEW
7 Eagle Microsoft Azure / 🇺🇸 米国 561.2 PFlop/s Microsoft NDv5 / Intel Xeon Platinum + NVIDIA H100
8 HPC6 Eni S.p.A. / 🇮🇹 イタリア 477.9 PFlop/s HPE Cray EX235a / AMD EPYC + Instinct MI250X
9 富岳(Fugaku) 理化学研究所 R-CCS / 🇯🇵 日本 442.0 PFlop/s Fujitsu A64FX 48C 2.2GHz / Tofu interconnect D ↓2(前回7位)
10 Alps CSCS / 🇨🇭 スイス 434.9 PFlop/s HPE Cray EX254n / NVIDIA Grace + GH200

※ Rmax = HPL実効性能(PFlop/s)。出典: TOP500.org(2026年6月)

📝 注目:前回(2025年11月版)まで9位・10位だったフィンランドのLUMIとイタリアのLeonardoは、それぞれ11位・12位に後退した。Eniは6位・8位と2台をTop10に送り込み、イタリア存在感が増した。

🔍 LineShine(霊晟)詳解 ― 「規模と執念の勝利」

全CPU構成で2 EFlop/s超 ― 史上初の快挙

LineShineの最大の特徴は、GPUもFPGAも一切使わず、CPUのみで2 EFlop/sを超えた点だ。TOP500の歴史でこれは初めての記録である。

システムは「LingKun」プラットフォームをベースに、独自開発のLX2プロセッサ(ARMv9命令セット、304コア、1.55GHz)を搭載する。20,480ノードに45,360基のLX2を配置し、HPL実行時の総コア数は13,789,440に達する。各ノードはデュアルプレーン・マルチレール ファットツリートポロジーの独自インターコネクト「LingQi」で接続(ノードあたり帯域1.6 Tb/s)、OSは国産のKylin OSを採用する。

項目 LineShine(霊晟) El Capitan(参考) 富岳(参考)
設置場所 深圳(中国) LLNL(米国) 神戸(日本)
HPL Rmax 2,198 PFlop/s 1,809 PFlop/s 442 PFlop/s
理論ピーク(Rpeak) 2,736 PFlop/s 2,880 PFlop/s 537 PFlop/s(ブーストモード)
HPL効率 約80% 約63% 約82%
総コア数 13,789,440 11,340,000 7,630,848
アクセラレーター なし(CPU専用) AMD Instinct MI300A なし(CPU専用)
消費電力 42.2 MW 約29.6 MW 約28.3 MW※
電力効率(GFlops/W) 52.07 60.94 15.42
HPCG順位 🥇 1位(22.00 PFlop/s) 🥈 2位(17.41 PFlop/s) 🥉 3位(16.00 PFlop/s)
HPL-MxP順位(AI向け) 4位(7.92 EFlop/s) 🥇 1位(16.7 EFlop/s)

※ El Capitanの消費電力はLLNL公式(29,581 kW ≈ 29.6 MW)、富岳の消費電力はHPCwire(2020年6月)よりLinpackラン時28.33 MW。富岳のRpeakはA64FXブーストモード時の富士通公式値(537 PFLOPS)。HPCG・HPL-MxP値はTOP500公式(2026年6月)。出典: TOP500.org / LLNL公式 / 富士通グローバルサイト / HPCwire

LX2プロセッサの技術的詳細

LX2は2ダイ・チップレット構成で、各ダイに4つのNUMAドメイン(各38コア)を持つ。コアにはARM SVE(スケーラブルベクトル拡張)とSME(スケーラブル行列拡張)を搭載し、FP64/FP32/BF16/FP16/INT8に対応する。メモリは32GBのオンパッケージHBM(最大4 TB/s帯域)と256GBのDDR5(推定)を組み合わせたNUMAアーキテクチャを採用する。

⚠️ LX2の設計元について:LX2の設計元はNSCS(深圳センター)が公式には非公表。Jon Peddie Researchが「HuaweiのLX2」と表現しており、Huaweiの関与が指摘されているが、確定情報ではない。記事によっては「Armv9系の独自CPU」と記述するにとどめている。

HPL首位 ≠ AI性能首位 ― 重要な読み解き

LineShineのHPL-MxP(混合精度、AIトレーニングに近いベンチマーク)は7.92 EFlop/s で4位にとどまった。HPL比の伸び率は3.6倍にすぎず、アクセラレーター搭載のEl Capitan(HPL比約9.2倍)やFrontier(同約8.4倍)に大きく劣る。

これは「CPUのみ設計」では低精度演算の高速化が限られるという設計の制約を示している。HPL「世界最速」はあくまで64ビット倍精度(FP64)の科学計算性能であり、AI訓練・推論の実力とは別軸である点は、報道を読む際に必ず念頭に置くべきだ。

📊 全体トレンドとハイライト

総合性能・エクサスケール時代の到来

500システムの合計Rmaxは18.74 EFlop/s(前回14.99 EFlop/s)に拡大した。エクサスケール(HPL≧1 EFlop/s)達成システムは5台(LineShine・El Capitan・Frontier・Aurora・JUPITER Booster)となり、アジア・北米・欧州の3地域すべてに同時にエクサスケール機が存在するのは史上初めてのことだ。

リスト参入の最低ラインは2.66 PFlop/s、Top100入りには21.85 PFlop/sが必要となった。平均コア数も305,354コア/システム(前回270,522)に増加している。

国別勢力図(2026年6月版)

台数 総Rmax(参考) 主な特徴
🇺🇸 米国 162台 7,039 PFlop/s 台数・総性能とも首位。El Capitan・Frontier・Aurora等のDOE機を擁する
🇯🇵 日本 44台※ 1,518 PFlop/s 台数・性能総計とも2位。富岳(9位)がHPCG3位維持
🇩🇪 ドイツ 41台※ 1,403 PFlop/s 欧州最多。JUPITER(5位)やGreen500上位機を保有
🇨🇳 中国 —(減少傾向) —(LineShineで急拡大) 2019年以降、台数提出を大幅縮小。LineShineの2,198 PFlop/sで総性能は大幅増

※ 日本44台・ドイツ41台はWikipedia TOP500記事(2026年6月版反映)より。中国の正確な台数はTOP500公式の図表が画像形式のため今回は確定できなかった。出典: Wikipedia TOP500 / TOP500 Highlights June 2026

技術トレンド:プロセッサ・アクセラレーター

プロセッサ別シェアではIntelが53.0%(前回57.0%から低下)でトップを維持するも、AMDが38.4%(192台)(前回35.6%)に上昇。Top10ではAMDがEl Capitan・Frontier・HPC7・HPC6と4台を直接駆動し、Top10合計性能の40%超に貢献した。

アクセラレーター搭載システムは277台(前回255台)に増加。内訳はNVIDIA Hopper 107台、NVIDIA Ampere 62台、AMD Instinct 32台。NVIDIAは「TOP500の81%、400台超でNVIDIA技術が稼働」と発表しており(NVIDIA公式ブログ、ベンダー提供値)、Green500上位8台もNVIDIA GPU搭載機が独占した。

Green500(電力効率)は変動なし

電力効率ランキングのトップ3は前回から不変。首位はフランス・トゥールーズ大学CALMIP設置のKAIROS(BullSequana XH3000、NVIDIA Grace Hopper GH200、73.28 GFlops/W)、2位が仏ROMEO-2025(70.91 GFlops/W)、3位がDKRZ(独)のLevante GPU拡張機(69.43 GFlops/W)。上位3機はいずれも同一アーキテクチャ(BullSequana XH3000 + Grace Hopper + Quad-Rail NVIDIA InfiniBand NDR200)で、システムサイズの差が順位差に反映されている。LineShineは52.07 GFlops/Wと、El Capitanの60.94 GFlops/Wに比べ効率面では劣る。

🇯🇵 日本の動向 ― 富岳と「富岳NEXT」

富岳:9位に後退も実応用性能で存在感

理研神戸の富岳は引き続き9位(442 PFlop/s)を維持した。HPLランクでは世界の新鋭機に押されているが、HPCG(実応用に近いメモリ帯域・通信集約型ベンチ)では16.00 PFlop/sで世界3位を堅持。富岳独自の全CPU・Tofu interconnect Dアーキテクチャが実科学計算での競争力を保っていることを示している。2021年3月の共用開始から5年が経過し、後継機への移行期に差し掛かっている。

富岳NEXT:基本設計完了、2030年稼働目標

富岳の後継機「富岳NEXT」は、理化学研究所を中核に富士通・NVIDIAとの国際連携で開発中だ。2025年6月に富士通が基本設計を受注、2025年8月にNVIDIA参画の国際体制が正式発足、2026年1月には理研・アルゴンヌ国立研究所(米DOE)・富士通・NVIDIAが先端HPC/AI推進で協力を発表。2026年5月29日に基本設計技術報告書が公表され、2026年度から詳細設計フェーズに移行している。

項目 富岳NEXT の概要
稼働目標 2030年頃(理研神戸・ポートアイランドの富岳隣接地)
CPU部 富士通「FUJITSU-MONAKA-X」(仮称)。FUJITSU-MONAKAを発展させた後継CPU。サーバ向け世界初のArm SME(行列演算エンジン)内蔵。富岳のアプリ資産とバイナリ互換を維持しつつAI処理加速機能を搭載。2029年投入予定(富士通ロードマップ)
加速部(GPU) NVIDIAが設計する並列演算性能・メモリ帯域に優れたGPUを採用。CPU-GPU間接続はNVLink Fusionの採用を検討中
ハードウェア性能目標 富岳比5倍以上のハードウェア性能(理研・富士通公式)。実アプリ最大100倍(富士通技術ブログSC25発表)
コンセプト 「AI for Science」。「Made with Japan」コンセプトで国内技術とグローバル連携を融合
進捗 2026年5月末に基本設計技術報告書を公表。2026年度以降は詳細設計フェーズへ

⚠️ 「FP8疎行列600 EFlop/s超」について:一部報道で言及される「ゼタスケール」「FP8疎行列600 EFlop/s超」という数値は、外部推計ベースの目標値であり、理研・富士通の公式発表数値ではない。公式発表は「富岳比5倍以上のハードウェア性能」「実アプリ最大100倍」にとどまっており、扱いには注意が必要だ。

🌍 地政学的文脈 ― 「輸出規制は無効か」という問い

LineShineは2019年以降、中国が大規模スパコンのTOP500提出を事実上止めていた中で、3年ぶりに本格的にsubmissionした。Intersect360 Research CEOのAddison Snell氏はReutersに「首位なのは驚かない。驚いたのは彼らが提出し、認知を求めたことだ」と語っており、今回の提出が技術力の誇示だけでなく政治的メッセージでもあることを示唆している。

一方、UC San DiegoのJimmy Goodrich氏は「ハイパースケーラーがシステムを提出すれば、この『世界最速』はトップ5にも入らないだろう」とも指摘する。xAIのColossus等の大規模AIクラスタはTOP500に提出されていないため、TOP500のHPLランキングはあくまでFP64科学計算での比較であり、AI分野の総合的な計算能力ランキングではないという点は、読み解く際の重要な留意点だ。

🔮 今後の見通し

エクサスケール機が5台に達した今、次の焦点は「ポストエクサスケール」競争に移る。主な節目は以下の通りだ。

  • 2026年末〜2027年:欧州初のNVIDIA Blackwellベース大規模機(独LRZの「Blue Lion」等)が稼働予定。EuroHPC第2のエクサ機「Alice Recoque」(仏TGCC、AMD EPYC Venice+Instinct MI430X)が設置開始
  • 2027〜2028年:Arm「Vera CPU」ベースの次世代機が各国に展開。米ORNLの「Discovery」(AMD EPYC Venice+Instinct MI430X、DOEとOracleの官民協力)が2028年頃稼働予定
  • 2029年:富士通MONAKA-X登場(富士通ロードマップ)
  • 2030年頃:富岳NEXT稼働目標。「AI for Science」を中核に国際的な存在感を狙う

電力効率の観点では、LineShineの42.2MWという消費電力は「規模で押し切る」アプローチの限界も示している。今後はGFlops/W(Green500)とデータセンターの電力制約が競争の主戦場になる。「富岳比5倍以上の性能を富岳と同等の消費電力で」というアプローチが世界で通用するかが、日本の国産アーキテクチャ戦略の試金石となるだろう。

まとめ

第67回TOP500の最大の成果は、中国が「輸出規制下でも、CPU大量投入によって世界首位のHPL性能を実現できる」ことを証明したことだ。ただしHPL首位 ≠ AI計算性能首位という本質的な制約も同時に明らかになった。

日本は富岳が総合ランキング9位ながらHPCG世界3位という実力を維持しつつ、富岳NEXTでCPU×GPU融合の「AI for Science」プラットフォームを2030年に投入する計画が着実に進んでいる。次回(2026年11月、SC26シカゴ)では、中国がLineShineのHPL-MxP等の追加ベンチを提出するか、米国の次世代機が姿を見せるかが焦点となる。

📚 主要出典:TOP500.org 公式リスト(2026年6月)/ HPCwire / Tom's Hardware / heise online / NVIDIA Blog / 理化学研究所 R-CCS / 富士通プレスリリース(2025年6月18日)/ Wikipedia TOP500(2026年6月版反映)

0 件のコメント: