「GPT-4」「GPT-4o」が登場した時の衝撃を覚えている方は多いと思います。当時、両モデルは一定以上の知的能力を示す一つの「基準点」として広く認識されました。あれから2年以上が経ち、フロンティアモデルは当時とは比較にならないレベルまで進化していますが、「GPT-4・GPT-4o以上の能力があるかどうか」という基準そのものは、モデル選定の実務上いまだに有効な物差しです。
今回は2026年7月時点で、この基準をクリアしているのが現在のどのモデル・どのティアなのかを、①フロンティアAI各社、②それ以外の欧米勢、③中国勢、④ローカルLLM、⑤日本勢の5カテゴリで整理しました。特にフロンティア各社については「最上位モデル」ではなく、Sonnet・Haikuに相当するような下位ティアがどこまで到達しているかに焦点を当てています。
基準点の確認:GPT-4/GPT-4oは数値でどのくらいだったか
まず物差しとなる2モデルの実測値を確認します。オリジナルGPT-4(2023年3月)はLMSYS Chatbot Arena Eloで約1185〜1201、MMLU(5-shot)86.4%。GPT-4o(2024年5月)はArena Eloで発表時約1287〜のちに1300超、OpenAI公式評価でMMLU 88.7%、GPQA Diamond 53.6%、MATH 76.6%、HumanEval 90.2%でした。
ただし、これらの数値は測定手法によって数ポイント動きます。たとえばMicrosoftのPhi-4技術レポート(simple-evalsという再現可能な評価フレームワーク使用)では、GPT-4oはMMLU 88.1%・GPQA 50.6%・MATH 74.6%・HumanEval 90.6%と、OpenAI公式値とはやや異なる数字が出ています。つまり「GPT-4o相当」とは、おおむねArena Elo 1185〜1290、MMLU 86〜89%、GPQA Diamond 50〜54%前後という「帯」で捉えるのが妥当です。
結論:GPT-4o基準は各社の最下位ティアまでほぼクリアされた
2026年7月時点の最大の変化は、フロンティア各社の最も安価・軽量なモデルまで含めて、ほぼ例外なくGPT-4o基準を上回っているという点です。「GPT-4o相当」はもはや各社のラインナップの中で最下層、あるいはそれ以下の旧世代モデルの領域に押し下げられました。
| 社 | 最上位(フラッグシップ) | 中位 | 下位(軽量・安価) | GPT-4o基準クリアの状況 |
|---|---|---|---|---|
| OpenAI | GPT-5.6 Sol | GPT-5.6 Terra | GPT-5.6 Luna | 下位のLunaまで基準帯を明確に超過。API下限のGPT-4.1 nano(MMLU 80.1%)はGPT-4o miniを上回るもののGPT-4o自体には未達。GPT-4o相当の実質的な下限はGPT-4.1 mini(OpenAIが「GPT-4o同等以上」と公称) |
| Anthropic | Fable 5(Mythos級)/Opus 4.8 | Sonnet 5 | Haiku 4.5 | 最下位のHaiku 4.5でSWE-bench Verified 73.3%。Anthropic公式に「near-frontier performance」と明言。基準帯を大きく超過 |
| Gemini 3.1 Pro | Gemini 3.5 Flash(新デフォルト) | Gemini 3.1 Flash-Lite($0.25) | 最下位Flash-LiteでGPQA Diamond 86.9%(Google公式値)。基準帯を大幅に超過 | |
| xAI | Grok 4.3/Grok 4.5 | — | Grok 4.1 Fast($0.20) | 下位のGrok 4.1 Fastが基準帯超。xAI自身がGPT-4o/Sonnet代替と位置づけ |
| Meta | Muse Spark 1.1(有料API)/Llama 4 Maverick | Muse Spark | Llama 4 Scout | オープンのLlama 4 Scoutまで基準帯超。Muse Sparkは2026年4月デビュー(初のクローズドウェイト)、1.1は7月9日に有料API開始 |
OpenAI:GPT-5.6が3階層でGA、GPT-4o相当の実質下限はGPT-4.1 mini
OpenAIは2026年7月9日、GPT-5.6シリーズ(Sol=フラッグシップ、Terra=バランス、Luna=高速安価)を一般提供開始しました。価格はSolが$5/$30、Terraが$2.50/$15、Lunaが$1/$6(すべて百万トークンあたり)。3月にはGPT-5.4とそのmini/nanoも投入されています。
一点注意したいのは、旧世代最小のGPT-4.1 nano(MMLU 80.1%、GPQA 50.3%)はGPT-4o miniを上回るものの、GPT-4o自体には届いていないという点です。OpenAIが公式に「GPT-4oと同等以上」と述べているのはGPT-4.1 miniの方であり、GPT-4o基準を確実にクリアするラインはGPT-4.1 miniと見るのが正確です。もっとも、GPT-5.6 Lunaのような現行世代の最軽量モデルは旧世代のGPT-4.1 miniよりさらに上の性能を持つとみられ、「現行ラインナップの最下層まで含めてGPT-4o超」という大枠は揺らぎません。
Anthropic:Haiku 4.5が「near-frontier」を体現
7月時点のラインナップはFable 5($10/$50)、Opus 4.8($5/$25)、Sonnet 5(導入価格$2/$10、2026年8月31日以降$3/$15)、Haiku 4.5($1/$5)。最下位のHaiku 4.5でさえ、Anthropicは公式に「near-frontier performance with much greater cost-efficiency」と表現しており、SWE-bench Verified 73.3%(50回平均)でSonnet 4相当を約1/3のコスト・2倍超の速度で実現しています。GPT-4o相当ティアは事実上存在せず、旧世代のClaude 3.5系がそれに近い水準です。
Google:最下層Flash-LiteでもGPQA 86.9%
Gemini 3.1 Pro(2月19日リリース)が最上位、5月19日のGoogle I/Oで発表されたGemini 3.5 Flashが新デフォルトとなり、コーディング・エージェント系ベンチで3.1 Proを上回る場面も出ています。Gemini 3世代の最軽量ティアにあたるGemini 3.1 Flash-Lite($0.25/百万トークン)もGPQA Diamond 86.9%を記録し、GPT-4oの53.6%を大きく超えています。
xAI・Meta:価格破壊とMetaの方針転換
xAIは7月8日、Cursorと共同学習したGrok 4.5($2/$6)を投入。Cursorの実利用データを学習に活用した点が特徴です。下位のGrok 4.1 Fast($0.20/$0.50)はxAI自身がGPT-4o・Claude Sonnetの高ボリューム代替と位置づけています。
Metaは4月に初のクローズドウェイトモデルMuse Sparkを投入し、7月9日には有料APIを伴うMuse Spark 1.1($1.25/$4.25)を発表しました。3年間続けてきた「無料オープンウェイト」路線からの大きな転換です。ただし、Meta自社ハーネスによるベンチマーク(Terminal-Bench 2.1で80.0)は、独立評価機関Vals AIの計測(69.29)と10ポイント以上の乖離があると報じられており、Meta公表値は割り引いて見る必要があります。
それ以外の欧米勢:Mistral・Microsoftも軒並みクリア
Mistral AIは2025年12月、675Bパラメータ(41Bアクティブ)の疎MoEモデルMistral Large 3をApache 2.0ライセンスで公開。GPT-4o・Claude級との比較を意識した設計とされ、価格も$0.50/$1.50程度と低廉です。小型のMistral Small 4もGPT-4o超と報告されています。
MicrosoftはBuild 2026で自社MAIモデル群(MAI-Thinking-1、MAI-Code-1-Flash)を発表。SWE-Bench Proでの好成績を主張していますが、Microsoft自身も「現行MAIには汎用大規模LLMは含まれず、フロンティアLLMは12〜18ヶ月先」と認めています。Amazon Nova 2 Liteなども含め、非フロンティア勢の主力モデルは概ねGPT-4o基準を超えています。
中国勢:オープンウェイトが西側フロンティアに接近
DeepSeek V4 Pro、Alibaba Qwen 3.7 Max、Moonshot AIのKimi K2.6、Zhipu AIのGLM-5.2、MiniMax M3などが軒並みGPT-4oを世代単位で凌駕しています。DeepSeek V4 ProやQwen 3.7 MaxについてはArena Eloで1450前後(GPT-4oの1287を160ポイント以上上回る水準)という報道が複数ありますが、いずれも非公式の集約サイト由来であり、独立監査を経ていない点には注意が必要です。それでも「安価なFlash級モデルでも基準帯を大きく超える」という方向性そのものは、複数ソースで一貫して確認できます。
ローカルLLM:GPT-4o相当は8〜14Bから、RTX 4090なら余裕で超過
Microsoft公式のPhi-4技術レポート(simple-evals準拠)によると、Phi-4(14B)はGPQA 56.1(GPT-4o 50.6)、MATH 80.4(GPT-4o 74.6)とGPT-4oを上回る一方、HumanEvalは82.6(GPT-4o 90.6)と下回っています。つまり「GPT-4o相当」は領域によって成立条件が異なり、STEM・数学ではより小型のモデルで到達可能な一方、コーディングでは相対的に大きめのモデルが必要という構図です。
コーディングに絞れば、Qwen2.5-Coder-32B-InstructがHumanEval 92.7%、Aiderベンチ73.7(GPT-4oと同水準)と、Qwen公式が「GPT-4oのコーディング能力に匹敵」と明言しています。RTX 4090(24GB VRAM)で動く27〜32B級のモデル(Qwen2.5-Coder 32B、Gemma 4 31B、Qwen3.6-27Bなど)であれば、GPT-4oを明確に上回る性能を完全ローカルで得られる時代になっています。
日本勢:日本語ではGPT-4o到達、フロンティアにはまだ距離
デジタル庁が政府AI基盤「源内(Gennai)」の試用LLMとして2026年3月に7モデルを選定したことが、国産勢の現状を象徴しています。
Preferred Networks(PFN)のPLaMo 2.2 Prime(31B、2026年1月28日リリース)は、自社ベンチJFBench(日本語指示追従)でGPT-5.1と同等の性能を達成したと公式発表されています。Jaster(4-shot)ではGemma3-27B・Qwen2.5-32B・GPT-4o miniを上回り、知識・分析・指示追従でLlama-3.3 70B相当と報告されています。
NTTのtsuzumi 2(30B、1GPU動作)は、NTT自身が「GPT-4oと同等以上の日本語理解能力」を公式に掲げるモデルです。MT-bench(Turn1・日本語)ではGPT-5と同等程度という結果も出ていますが、NTT自身も「全方位でChatGPTより上ではない」と明言しており、強みはあくまで「1GPUの軽量性」「日本語性能」「オンプレでの機密データ処理」の組み合わせにあります。
国立情報学研究所(NII)のLLM-jp-4も、日本語MT-BenchでGPT-4o(7.29点)を明確に上回るスコア(8Bモデルで7.54、32B-A3Bモデルで7.82)を記録しており、日本語の対話品質という軸では複数の国産モデルが既にGPT-4oを超えています。
一方で、富士通Takane、ELYZA、SB IntuitionsのSarashina、Stockmark-2-100Bなどについて、MMLU・GPQA・HumanEvalといった英語中心のグローバル指標でGPT-4oと直接比較した公式数値は、今回の調査では確認できませんでした。各社が公表しているのは、JMMLU・JHumanEvalなど日本語版ベンチや、同規模の他モデル(Qwen2.5、Llama3.2など)との比較が中心です。
確認できたのは、日本語の総合力を横断評価するNejumiリーダーボード4の総合Top 50に、国産モデルが一つも入っていないという事実です。ただしこのTop 50は、Gemini 3.1 Pro・Claude Opus 4.6・GPT-5.2など、GPT-4oよりはるかに強力な現行フロンティアモデル群を含んだ順位であり、「GPT-4oにすら届いていない」ことの根拠にはなりません。正確には、日本語の対話・指示追従タスクでは複数モデルがGPT-4o水準に到達・超過している一方、現行フロンティアモデルには及んでいないというのが実情で、コード生成・数学など英語中心の汎用指標でGPT-4o単体との優劣を論じられるだけの直接データは、現時点では乏しいというのが正直なところです。
まとめ
2026年7月時点で「GPT-4/GPT-4o以上か」という基準は、実質的にほぼすべての現行商用モデルがクリアする最低ラインになっています。モデル選定の実務では、この基準を「足切り」として使い、その上でコスト・レイテンシ・エージェント能力・コンテキスト長・データ主権といった軸で差別化するのが現実的です。GPT-4o相当の品質で十分なら、各社の下位ティア(Haiku 4.5、Gemini 3.1 Flash-Lite、GPT-5.6 Luna、Grok 4.1 Fastなど)を既定にし、難タスクのみ上位モデルへエスカレーションする階層戦略が定石と言えるでしょう。
注記(信頼性について):本記事のベンチマーク数値は、可能な限り各社の公式発表・技術レポート(OpenAI、Anthropic、Google、Meta、Microsoft、Qwen、Preferred Networks、NTT、NII等)で裏取りしていますが、一部(Arena Elo等の集約指標、Meta自社ハーネスによるベンチマーク)は非公式の集約サイトや自社報告に基づいており、測定手法によって数ポイントの幅があります。特にMuse Sparkの一部ベンチマークは独立評価機関の測定値と乖離が報告されているため、割り引いて参照してください。ベンチマークスコアは実際の使用感を完全には代表しないため、重要な意思決定には自社データでの再現検証をおすすめします。
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