マイクロソフトのCopilotは、この半年でたびたび姿を変えてきました。3月の組織再編、4月のOpenAIとの契約改定、6月のCopilot Cowork一般提供、7月の価格改定、8月のアプリ統合と個人向け機能の廃止を経て、9月25日にはHome/Code/Autopilotを1つにまとめた新しいCopilotアプリが発表されました。
個々の発表だけを追うと全体の方向が見えにくくなります。そこで本記事では、2026年3月から9月までの動きを「製品」「課金」「モデル」「個人向け」「日本市場」の5つの軸で整理します。特に9月下旬に表面化した「個人向けAIコンパニオン路線からの撤退」は、Copilotのこれからを読むうえで欠かせない論点です。
結論を先に書きます。Copilotは「OpenAIモデルを使い、シート単位で売る個人・法人兼用のチャットアシスタント」から、「複数のモデルで動き、シート料金と従量課金の二層で売る、職場向けのエージェント基盤」へ移ろうとしています。ただし移行は途中の段階です。新アプリの主要機能の多くは、2026年9月26日時点でまだFrontier(早期アクセス)やプレビューの段階にあります。
・価格は特に断りのない限り米国向けの定価で、1ユーザーあたりの月額換算、原則として年間契約です。税、地域ごとの価格、EA/CSP割引は含みません。日本円の価格は公式の価格表または契約窓口で確認してください。
・有料シート数などの数値の多くは、マイクロソフトの決算説明会や公式ブログでの自己申告です。独立した検証はほとんどありません。
・Sensor Towerなどの利用者数は第三者による推計で、公式の数字ではありません。
1. 半年間の主な動き
| 日付 | 出来事 | 意味合い |
|---|---|---|
| 2026年3月9日 | M365 E7「Frontier Suite」とAgent 365を発表(どちらも5月1日に一般提供開始) | エージェントの管理基盤を含む最上位スイートを新設 |
| 3月17日 | 個人向けと法人向けのCopilot組織を統合。Jacob Andreou氏がCopilot担当EVPに就任し、Mustafa Suleyman氏はモデル開発に専念 | 個人向けを独立して推進する体制が終わる |
| 3月20日 | Windows責任者が、Windows 11の一部アプリにある不要なCopilotの入口を減らす方針を表明 | OSへのAIの露出を見直す |
| 4月3日 | 日本に2026〜2029年で100億ドル(約1.6兆円)を投資すると発表。同じ日に、日本でのCopilot国内推論処理の予定を2028年に変更 | 大規模投資と、データ主権対応の遅れが同時に出る |
| 4月27日 | OpenAIとの契約を改定。IPライセンスは2032年まで続くが非独占に | マルチモデル化の契約上の前提が整う |
| 6月2〜3日 | Build 2026で、最初のAutopilotエージェント「Microsoft Scout」と自社モデル群(MAI)を発表 | 常駐型エージェントの方向を示す |
| 6月16日 | Copilot Coworkを全世界で一般提供開始。Copilot Creditsによる従量課金を導入 | 「シート料金+従量課金」の始まり |
| 7月1日 | M365商用ライセンスの価格改定(新規契約と更新時から適用) | AI機能を理由とするスイートの値上げ |
| 8月13日〜18日 | 個人向けアプリとM365 Copilotアプリの統合を開始。8月18日に個人向けのPodcasts、Group Chats、Deep Research、Copilot Labs、キャラクター「Mico」を廃止 | 個人向けの目玉機能を整理 |
| 9月25日 | 新Copilot(Home/Code/Autopilot)を発表。同じ時期に「Copilot+ PC」ブランドの使用中止も明らかに | 職場向けへの集中と、個人向けコンパニオン路線の終わりがはっきりする |
2. 「チャット」から「エージェント」へ
製品面の軸は、チャットで手伝う存在から、仕事を任せられる存在への移行です。ナデラCEOは7月29日の決算説明会で、Copilotがチャットから、Cowork、さらにAutopilotへと急速に進化していると説明しました。
- Copilot Cowork(6月16日に一般提供開始):複数のステップからなる作業を実行し、成果物を返す機能です。利用にはM365 Copilotライセンスが必要で、実際に使った分はCopilot Creditsで別途課金されます。
- Autopilot:名前・役割・目標を与えて常駐させるエージェントです。Build 2026では最初のAutopilotとして「Microsoft Scout」が発表されました。9月の新アプリではScoutという名前は使われず、ユーザーが自分で作って名前を付けるAutopilotとして整理されています。Scoutは現行の別製品ではなく、Autopilotの初期の名前と考えるのが適切です。
- 新Copilotアプリ(9月25日発表):Home(ChatとCoworkの統合)、Code(自然言語でのアプリ作成)、Autopilotの3つで構成されます。発表時点では、HomeとCodeは今後数週間でFrontier向けに順次提供され、Autopilotは9月末にプライベートプレビューを広げる予定という段階です。
方向ははっきりしていますが、一般提供まで進んでいるのはCoworkまでです。CodeとAutopilotの一般提供時期と価格はまだ決まっていません。本番業務の設計に組み込むのは、まだ早い段階です。
3. 個人向けAIからの撤退と消極化
この半年で最も大きな方向転換は、個人向けCopilotの扱いです。マイクロソフトは2024年にInflection AIの共同創業者Mustafa Suleyman氏を迎え、個人向けCopilotを任せました。2025年4月の創業50周年イベントでは、Copilotを「Your AI Companion」(あなたのAIの相棒)と位置づけていました。そこから1年半で、この路線は大きく縮小しています。
3-1. 縮小の経緯
| 時期 | 確認できる事実 | 筆者の見方 |
|---|---|---|
| 2026年3月 | 個人向けと法人向けの組織を統合。Suleyman氏はCopilot製品の責任者を離れ、モデル開発と「スーパーインテリジェンス」に専念 | 個人向けを独立した事業として推す体制がなくなった |
| 2026年3月 | Windows 11のメモ帳やペイントなどで、Copilotの入口とブランド表示を減らす方針を表明 | OSの隅々にCopilotを置く手法を見直した。ただしWindowsのAI機能そのものをやめたわけではない |
| 2026年8月18日 | 個人向けのPodcasts、Group Chats、Deep Research、Copilot Labs、キャラクター「Mico」を廃止。作成済みのPodcastsやGroup Chatsの内容は見られなくなった | 個人向けの差別化機能を大きく整理した |
| 2026年9月25日 | 新Copilotを職場向けを軸に発表。Bloombergの報道によると、Charles Lamanna氏は「個人のコンパニオンのようなCopilotは作らない」と述べた | コンパニオン路線からの撤退を幹部が言葉で示した |
| 2026年9月下旬 | 新型Surfaceが「Copilot+ PC」を名乗らずに登場。Surface担当CVPのBrett Ostrum氏がWindows Centralに対し、要件は満たしているがCopilot+ PCとは呼ばないと説明 | 個人向けPC市場でも、Copilotの名前を前面に出すのをやめた |
3-2. 背景にある利用規模の差
縮小の背景には、競合との利用規模の差があります。CNBCが引用したSensor Towerの推計では、2026年2月の1日あたりの利用者数はCopilotアプリが600万人でした。同じ月のChatGPTは4億4,000万人、Geminiは8,200万人です。GeekWireが引用した同社の推計では、7月の個人向けCopilotアプリの月間利用者は約3,850万人で、約10億人のChatGPTとは大きな差があります。どちらも第三者の推計で、集計の範囲が完全に同じとは限りません。それでも、個人向け市場で存在感を示せなかったことははっきりしています。
Bloombergによれば、Andreou氏とLamanna氏は、MetaのMuseのように利用者の代わりに行動する個人向けアシスタントが伸びていることを、人々がAIによる自動化を求めている証拠と見ています。そのうえで、マイクロソフトの役割はその能力を職場に届けることだと説明しています。個人向けで正面から戦うのではなく、得意な職場の領域で自動化を提供するという判断です。
3-3. 「撤退」はどこまでか
「撤退」はBloombergなどの表現で、マイクロソフト自身はこの言葉を使っていません。事実として確認できるのは、個人向けの提供そのものをやめたのではなく、次の3つをやめたことです。
- コンパニオンとしての打ち出し:キャラクターのMicoや、「Your AI Companion」という位置づけ
- 個人向けだけの実験的な機能:Podcasts、Group Chats、Copilot Labsなど
- ハードウェアでのCopilotブランドの強調:Copilot+ PC
一方で、個人の利用者がすべて切り捨てられたわけではありません。無料のチャットは引き続き使えます。Bloombergによれば、健康に関する質問、学習支援、ニュースの取得といった個人向けの機能の一部は、新アプリに引き継がれました。個人向けDeep Researchの代わりとしては、Microsoft 365 Premiumの契約者向けにResearcherが用意されています。個人のCopilotの受け皿は、単独のチャットボットではなく、M365の個人向けサブスクリプションに移ったと見るのが実態に近いでしょう。
利用者にとっての影響も整理しておきます。廃止された機能で作ったコンテンツは見られなくなりました。スタンドアロンのCopilotアプリで作ったファイルはOneDriveに移されます。企業の管理下にあるWindows 11 PCでは、統合版アプリが自動で更新される場合があります。管理者は配布ポリシーを確認しておく必要があります。
4. 課金モデル:シート料金と従量課金の二層構造
料金体系は二層構造になりました。チャットやOfficeアプリとの連携といった日常的なAI機能はシート料金に含まれます。Cowork、Code、Autopilotのように計算量の多い機能は、Copilot Creditsなどによる従量課金の対象です。Copilotのすべての機能が従量課金になったわけではない点に注意してください。
| 項目 | 価格(米ドル) | 適用 | 補足 |
|---|---|---|---|
| M365 E7 Frontier Suite | 99 | 2026年5月1日から | E5、M365 Copilot、Agent 365、Entra Suiteをまとめたもの |
| Agent 365(単体) | 15 | 2026年5月1日から | エージェントのID・セキュリティ・管理を担う基盤 |
| M365 Copilot(アドオン) | 30 | 据え置き | Coworkの利用権は含まれるが、Coworkで消費するクレジットは含まれない |
| M365 E3/E5 | 36→39/57→60 | 7月1日以降の新規契約・更新 | 既存の契約すべてが同じ日に値上げされるわけではない |
| Business Standard/Premium with Copilot | 23.50/32 | 7月1日から常設 | 中小企業向けのCopilot込みバンドル |
| Copilot Business(300ユーザー以下) | 21(割引時は18) | 割引は2026年7月1日〜12月31日 | 18ドルは初年度・年間契約が条件の割引価格。「18ドルから21ドルへの値上げ」ではない |
E7の損得は計算の基準日で変わります。7月1日以降の定価で比べると、E5(60ドル)とCopilot(30ドル)の合計90ドルに対し、E7は差額約9ドルでAgent 365とEntra Suiteが付きます。旧E5価格の57ドルで比べると差額は12ドルです。いずれにしても、Agent 365とEntra Suiteを実際に使う計画がなければ割安にはなりません。
Coworkのクレジットは、従量課金(PayGo)の場合1クレジット0.01ドルです。年間の前払い(P3)では、購入量に応じて5〜20%の割引があります。マイクロソフトの公式ガイドが示すタスクごとの目安は次のとおりです。
| タスクの規模 | 公式の目安(クレジット数) | PayGoで換算した金額 |
|---|---|---|
| 軽い | 70〜200 | 0.70〜2ドル |
| 中程度 | 400〜600 | 4〜6ドル |
| 重い | 1,500超 | 15ドル超 |
実際の消費量は、使うモデル、読み込む情報の量、ツールの呼び出し回数、実行時間によって変わります。固定の料金表ではありません。開発者向けのGitHub Copilotも、6月1日に利用量に応じた課金へ移りました。AIの費用は、予算を立てやすい固定費から、使い方次第で変わる変動費へと性格を変えつつあります。
5. モデル戦略:OpenAI一本足からマルチモデルへ
4月27日の契約改定で、マイクロソフトが持つOpenAIのモデルと製品のIPライセンスは2032年まで続くことになりましたが、非独占になりました。OpenAIは他のクラウドでも製品を提供できます。一方でマイクロソフトは引き続き主要なクラウドパートナーで、原則としてAzureで先に提供される形は残ります。マイクロソフトがOpenAIに支払っていたレベニューシェアは終わり、OpenAIからマイクロソフトへの支払いは2030年まで続きます。AGIの達成に連動した権利や支払いの条件は事実上なくなったと報じられています。ただし、マイクロソフトの公式発表は「AGI条項の削除」という言い方はしていません。
製品面では、AnthropicのClaudeがOpenAIのモデルと並ぶ選択肢としてM365 Copilotに組み込まれました。5月にはClaude Opus 4.8、7月にはGPT-5.6とClaude Sonnet 5が利用可能になっています。ただしClaudeはすべての環境の標準モデルではありません。使えるモデル、対応するアプリ、既定の設定、ライセンスの条件は機能ごとに異なり、Frontierプログラムへの参加が条件になるものもあります。
これを「OpenAI離れ」と呼ぶのは正確ではありません。OpenAIを主要なパートナーとして保ちながら、Claudeや自社のMAIモデルを加えて依存先を分散した、と見る方が実態に合っています。規制の厳しい業種では、OpenAI以外のモデルを使うときにデータがどこでどう処理されるかを、モデルごとに確認する必要があります。
6. 採用状況と課題
マイクロソフトによると、M365 Copilotの有料シートは4月時点で2,000万超、7月時点で3,000万超に増えました。GeekWireは、3,000万を1月時点で4.5億超あったM365の商用有料シートで割ると約6.7%になると試算しています。ただしこれは購入されたシートの大まかな比率です。分母と分子の対象範囲が完全に一致する保証はなく、実際に使われている割合や、投資に見合う成果が出ている割合を示すものでもありません。
つまり、シート数の伸びは確かに加速していますが、「買われたシート」と「業務で成果を出しているシート」は別物です。後者を独立して検証したデータはまだ限られています。
7. 日本市場への影響
- 100億ドルの投資(4月3日):2026〜2029年の計画で、国内のAIインフラ、サイバーセキュリティ、人材育成が柱です。さくらインターネットとソフトバンクのGPUをAzure経由で使えるようにする構想は、日本語の公式発表では「共同開発について検討を開始」という段階です。まだ提供中のサービスではありません。
- 国内推論処理の延期:2025年11月の発表では、日本でのM365 Copilotの国内処理は2025年末までに提供される予定でした。2026年4月3日の更新で、日本は2028年予定に変わりました。国ごとの時期が示されているオーストラリア、インド、UAE、英国、米国、カナダ、日本の中では最も遅い予定です(EU/EFTAは国単位ではなく地域単位の処理に変わっています)。対象がM365 CopilotからCopilot Studio、Power Platform、Dynamics 365まで広がった点もあわせて押さえておく必要があります。
- 日経225企業の94%:マイクロソフトは、日経225企業の94%がM365 Copilotを利用していると発表しています。ただし「利用」の定義、ライセンス数、本番導入の割合は公表されておらず、試験導入を含む可能性があります。
- 公共部門:中央省庁では、デジタル庁が政府職員向けの生成AI基盤「源内」を独自に整備しています。Copilotだけでなく、内製・国産の基盤と並行して進んでいるのが現状です。
データを国内に置くことが求められる金融機関や公共部門では、2028年までの空白期間をどう埋めるかが実務上の課題になります。国内リージョンのAzure OpenAIや国内事業者のGPU基盤などを組み合わせる構成を、あらかじめ検討しておく価値があります。
8. 企業ユーザーへの示唆
- E7は使う計画で判断する:Agent 365とEntra Suiteを12か月以内に本格的に使わないなら、E5とCopilotの組み合わせのままの方が合理的です。
- Coworkは上限設定から始める:対象部門を絞って試し、管理画面でクレジットの上限を設定したうえで、2〜3か月かけて実際の消費量を測ってください。PayGoかP3かはその結果で決めます。
- CodeとAutopilotは評価にとどめる:Frontierやプレビューの段階のうちは、本番業務に組み込まないでください。
- ガバナンスを先に整える:エージェントの台帳、SharePointなどの過剰な共有の是正、情報漏えい対策(DLP)、モデルごとのデータの流れの確認を、全社展開の前に済ませてください。
- 個人向け機能に頼った運用を見直す:社員が個人アカウントのCopilotで廃止済みの機能を業務に使っていなかったか確認してください。統合版アプリへの自動更新のポリシーもあわせて確認します。
まとめ
2026年のCopilotの変化は、3つの転換にまとめられます。1つ目はチャットから作業の委任と常駐型エージェントへの転換、2つ目はシート料金だけの課金から「シート料金+従量課金」への転換、3つ目はOpenAIへの一本足からマルチモデルへの転換です。その裏側で、個人向けのAIコンパニオン路線は、組織再編、機能の廃止、Copilot+ PCブランドの使用中止という段階を経て、事実上終わりました。
これは、個人向けチャットボット市場をChatGPT、Gemini、Metaに譲り、M365という強い足場のある職場向けに資源を集中するという判断です。成否を分けるのは、まだプレビュー段階にあるAutopilotなどのエージェント機能が、どれだけ早く、予測できるコストで、統制の効いた形で実務に定着するかです。日本の利用者にとっては、これに加えて2028年まで延びた国内推論処理への対応が、当面の現実的な課題になります。
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