2026年のいま、実際に動いているCPUアーキテクチャ(命令セットアーキテクチャ、ISA)は何種類あるのでしょうか。そして、それぞれどこで生き残り、これからどうなるのでしょうか。
この問いが以前より難しくなっているのは、AIデータセンター需要で数字が派手に動いているからです。「Armがサーバー市場の45%を取った」という見出しが並ぶ一方で、ほぼ同じ時期の別の統計ではArmのサーバーCPU出荷台数シェアは13.6%とされています。3倍以上の開きがありますが、どちらも間違いではありません。測っているものが違うだけです。この差を意識せずに数字を引用すると、そのまま投資判断や提案書の前提が歪みます。
先に結論を書きます。現役ISAの構図は、汎用市場を占める2大勢力(x86-64とAArch64)に、成長中の第3極RISC-V、そしてIBM z/Power、中国独自ISA、組込み系の少数派が併存する形です。この構図自体は数年来大きく変わっていません。2026年に起きた本質的な変化はISAの入れ替わりではなく、ArmとNVIDIAが「IPやGPUを売る側」から「完成したサーバーCPUを直接売る側」に回ったことです。競争軸はISAそのものより、マイクロアーキテクチャの実装、製造ノード、メモリとパッケージング、そしてソフトウェアの成熟度に移っています。
1. いま動いている主要ISAの棚卸し
まず「現役」の定義をはっきりさせておきます。以下の表は「新規のCPU開発が続いている」ISAを主対象にしています。新規開発は止まっていても販売・保守が続いているもの(SPARCなど)や、データセンター文脈では出てこないが出荷個数では圧倒的なもの(8051、AVR、PICなど)は別扱いにして、後半で触れます。
| ISA | 主な推進主体 | 主戦場 | 2026年時点の位置づけ |
|---|---|---|---|
| x86-64 | Intel、AMD(+中国のHygon、Zhaoxin) | PC、汎用サーバー | 出荷台数では依然サーバーの多数派。2024年10月のx86 Ecosystem Advisory Group発足で、Intel/AMDが初めて共同ガバナンスを持った |
| AArch64(Arm) | Arm、Apple、Qualcomm、NVIDIA、ハイパースケーラ各社 | モバイル、AIサーバー、Mac、車載 | モバイルはほぼ寡占。AIラックのホストCPUとして売上シェアが急伸。Arm自身が完成チップの直販に参入した |
| RISC-V | RISC-V International、SiFive、Qualcomm、Alibaba、中国勢ほか | 組込み、AIアクセラレータ、開発用サーバー | RVA23とServer Platform仕様の整備でサーバー参入の土台が完成。ただし本番量産サーバーの実績はこれから |
| Power ISA | IBM | 基幹系UNIX/IBM i | Power11を2025年7月に投入。ミッションクリティカル領域で継続 |
| z/Architecture | IBM | メインフレーム | z17を2025年に投入。オンチップAI推論を前面に出す方向へ |
| LoongArch | Loongson(龍芯) | 中国国内の政府・産業用途 | 独自ISAでデスクトップ・サーバー製品を継続投入。性能は西側の主流から数世代遅れとする独立評価が多い |
| SPARC | 富士通(新規開発は終了方向) | 既存基幹系 | 新規CPU開発の主流からは外れたが、SPARC M12は2029年8月まで販売、2034年11月までサポート予定 |
| 組込み系各種 | Cadence(Xtensa)、Synopsys由来のARC、Microchip(AVR/PIC)、ルネサス(RX等)ほか | MCU、DSP、車載 | 出荷個数では巨大。ただしデータセンター戦略の比較対象にはならない |
この表から抜けているものとして、MIPSがあります。MIPS社は2022年にRISC-V製品への転換を発表し、2025年8月にGlobalFoundriesによる買収が完了しました。MIPS ISA自体はレガシー保守の領域に入っています。ロシアのElbrus(MCST)も、制裁で先端ファウンドリへのアクセスを失って以降、国内の組込み・産業用途に縮退しており、汎用市場の比較対象からは外れています。
2. 「Armがサーバー売上の45%」をどう読むか
この一年でもっとも引用され、もっとも誤用されている数字がこれです。整理しておきます。
IDCのWorldwide Quarterly Server Trackerによれば、2026年第1四半期の世界サーバー市場は1,226億ドル(前年同期比+30.4%)で、このうち非x86サーバーが587億ドル、売上の47.9%を占めました。前年同期比では+107.6%と倍増以上です。この非x86の95%超がArmであるとIDCが示した、とTom's Hardwareが報じており、そこから逆算するとArmだけでサーバー売上の45%超という数字になります。
一方、Mercury Researchの推計を引用したThe Registerの報道では、2026年第2四半期のArmサーバーの出荷台数シェアは13.6%(過去最高、前四半期比+0.5ポイント)です。第1四半期は13.2%でした。Mercury Researchのディーン・マッカロン氏は、Armサーバー出荷が前年比でほぼ倍増した主因を、Blackwell NVL72 AIラックに搭載されるNVIDIA Graceの急成長だと説明しています。
つまり、45%は完成したサーバー/ラックの売上であり、13.6%はCPUの出荷台数です。NVL72のようなAIラックは1台あたり最大650万ドル程度(構成と販売チャネルによる市場推定値であり、NVIDIAの公式価格ではありません)とされ、金額を強く押し上げます。台数で見れば、汎用サーバーの現場はまだx86が多数派です。
| 指標 | 時点 | 数値 | 何を測っているか |
|---|---|---|---|
| 非x86サーバー売上比率(IDC) | 2026年Q1 | 47.9%(587億ドル) | 完成システムの売上。高額なAIラックの影響を強く受ける |
| Armサーバー出荷台数シェア(Mercury推計) | 2026年Q2 | 13.6% | CPUの出荷個数。単価の影響を受けない |
| Armクライアント出荷台数シェア(Mercury推計) | 2026年Q2 | 15.3% | ChromebookとApple Silicon Macを含む |
| AMDのx86クライアント出荷台数シェア(Mercury推計) | 2026年Q2 | 30.3% | IoT/SoCを除くx86クライアントCPU。初の30%超 |
| GPU搭載サーバー売上(IDC) | 2026年Q1 | 689億ドル(全体の56.2%) | サーバー市場の過半がアクセラレータ搭載機になった |
実務上の教訓はシンプルです。ISAのシェアを語るときは、(1)搭載CPUの台数・ソケット数、(2)CPU単体の売上、(3)完成システムの売上、(4)演算性能、(5)ソフトウェアの対応状況を、それぞれ別の指標として扱うことです。この5つは同じ方向を向かないことがあり、実際いまは大きく食い違っています。
3. x86陣営 — 40年ぶりの共同ガバナンス
IntelとAMDは2024年10月に「x86 Ecosystem Advisory Group(EAG)」を設立しました。Broadcom、Dell、Google、HPE、HP、Lenovo、Meta、Microsoft、Oracle、Red Hatが創設メンバーに名を連ね、Linus Torvalds氏とTim Sweeney氏も参加しています。競合2社がISAの方向性を共同で決める枠組みは、x86の歴史では初めてです。
2025年10月13日の1周年発表で公式に挙げられた成果は次の4つです。FRED(Flexible Return and Event Delivery、割込みモデルの近代化)を標準機能として確定、AVX10を次世代ベクトル拡張として確立、ChkTagを統一メモリタギング仕様として導入、ACEを行列積アクセラレーション(AMXの後継として両社共通化するもの)として標準化。ACEについては2026年6月に両社共同のホワイトペーパーが公開されています。
長年の混乱要因だったAVX-512/AVX10のベクトル長問題も、方向は定まりました。Intelは2025年3月の技術資料で、256ビット専用構成を廃止し、すべてのAVX10実装が最大512ビットをサポートする形に改めています。ただしここは注意が必要で、ISAとして512ビット命令に対応することと、各マイクロアーキテクチャが512ビット幅の物理データパスを持つことは別問題です。命令が使えることと、1サイクルで処理できることを混同すると性能見積もりを外します。EAG準拠の機能を実装したシリコンが実際に出そろうのはこれからで、FREDやChkTagのようなマイクロアーキテクチャ深部に関わる機能は、さらに数年先になると見られます。
x86陣営の競争力を左右するもう一つの変数が、Intelの製造です。18AプロセスはアリゾナのFab 52で量産に入り、Panther Lake(Core Ultra Series 3)が最初の製品となりました。焦点は次の14Aで、Intelは2025年7月に「有力な外部ファウンドリ顧客を確保できなければ開発を一時停止または中止する可能性がある」とSEC提出書類で明示していました。その後2026年第2四半期に14Aの開発完遂をコミットしましたが、2026年9月時点で外部顧客の名前は公表されていません。CFOのデイビッド・ジンスナー氏は2026年9月2日のドイツ銀行主催カンファレンスで、顧客との対話が「プロセス技術の評価段階を越えて、どれだけの生産能力を確保できるかという話に移っている」と述べ、14Aの外部顧客獲得に「確信」を持つとしました。リスク生産は2027年、量産は2028年の計画です。ここが決まるかどうかは、x86陣営全体のコスト競争力に直結します。
4. Arm陣営 — IPベンダーが自らチップを売る側に回った
2026年のもっとも大きな構造変化は、ここです。
Armは2026年3月24日、Arm AGI CPUを発表しました。35年の歴史で初めて、IPやサブシステムではなく完成したシリコンを直接顧客に供給する製品です。Neoverse V3コアを最大136基、TDP 300W、TSMCの3nm(N3P)を使ったチップレット構成。Metaがリードの共同開発パートナー兼顧客で、OpenAI、Cloudflare、Cerebras、SAPなども採用を表明しています。サーバーシステムはASRock Rack、Lenovo、Quanta、Supermicroが用意し、広範な提供は2026年後半とされています。「x86プラットフォーム比でラックあたり性能2倍超」というのはArmの公称値で、独立検証はこれからです。CEOのレネ・ハース氏は2031年までにこのチップ単体で150億ドルの売上を見込むと述べていますが、これは会社側の予想です。
この動きの意味は、Armが自社のライセンシーと直接競合する立場になったことです。中立のIP供給者という長年のポジションを、自ら崩しにいっています。
NVIDIAも同じ方向に動きました。2026年3月16日のGTCで発表されたVeraは、GraceがArm標準コアを使っていたのに対し、NVIDIA自社設計の「Olympus」コア(Armv9.2互換)を88基搭載します。spatial multithreadingにより176スレッド、LPDDR5Xで最大1.2 TB/sのメモリ帯域、NVLink-C2Cで1.8 TB/sのCPU-GPU間コヒーレント接続。コンピュートダイはチップレットではなくモノリシック(TSMC 3nm)で、SKUは88コアの1種類のみという割り切った構成です。重要なのはGPUから独立したスタンドアロン製品として売られる点で、NVIDIAが初めて汎用サーバーCPU市場に正面から入ってきたことを意味します。フル生産に入っており、Dell・HPE・Lenovo・Supermicroのシステムは2026年後半に出荷予定です。
| 製品 | ISA | 主要諸元 | 状況(2026年9月時点) |
|---|---|---|---|
| Arm AGI CPU | Armv9系(Neoverse V3) | 最大136コア/300W/TSMC 3nm/チップレット | 2026年3月発表、初期システム提供中。広範な提供は2026年後半 |
| NVIDIA Vera | Armv9.2互換(自社Olympusコア) | 88コア/176スレッド/LPDDR5X 1.2 TB/s/NVLink-C2C 1.8 TB/s | フル生産中。OEMシステムは2026年後半 |
| AMD EPYC「Venice」 | x86-64(Zen 6) | 256コア/TSMC 2nm(世代間70%性能向上はAMD公称) | 2026年世代として予定 |
| Intel Clearwater Forest | x86-64 | 288 E-core/Intel 18A | 2026年世代。Pコア版のDiamond Rapidsも同年予定 |
ライセンス面では、ArmとQualcommの係争が一応の決着を見ました。2024年12月の陪審評決に続き、2025年9月30日にデラウェア連邦地裁がArmの残る請求を退け、Nuvia由来のライセンスをめぐる本訴はQualcomm側の勝訴で確定しました(Qualcomm自身は「完全勝訴」と表現していますが、これは当事者の言い分です)。Armは控訴しており、またQualcommがArmを提訴した別件が2026年第4四半期に公判予定です。訴訟自体はまだ終わっていません。
5. RISC-V — 「RVA23シリコンの年」の実態
RISC-Vについては、期待と実態の距離をきちんと測る必要があります。
土台の整備は明確に進みました。2024年10月に批准されたRVA23プロファイルは、64ビットアプリケーションプロセッサ向けにベクトル拡張とハイパーバイザ拡張を必須化し、OSベンダーが狙える共通の的を初めて提供しました。さらに2026年にはRISC-V Server Platform Specification 1.0が承認され、RVA23対応コアの上にUEFIとACPI 6.6、SBIといった業界標準のブート・ランタイム契約が乗りました。これにより、1つのOSイメージが準拠サーバー間で起動するという、x86やArmでは当たり前だった前提がRISC-Vにも成立します。
ソフトウェア側も追いついてきています。Ubuntuは25.10でriscv64のベースラインをRVA20からRVA23へ引き上げ、26.04 LTSでRVA23を正式サポート。パッケージのカバレッジはamd64比で約95%に達しています。openEulerもRVA23対応の初のLTSを出しました。
シリコンも出始めました。RISC-V InternationalのCEOアンドレア・ガロ氏は2026年を「RVAシリコンの年」と呼んでおり、SiFiveのPerformance P870D(最大128コア)、AkeanaのAlpineテストチップ、NextSiliconのArbel、Epic SemiのContrail AIX(32 RISC-Vコア+16 AIコア)などが登場しています。SiFiveは2026年4月に4億ドルのシリーズGを調達しました。
ただし、ここから先は慎重に読むべきです。SiFiveのBigSky SF-2U870はラックマウント型のRISC-Vサーバーとして注目されましたが、SiFive自身の位置づけは「ソフトウェア移植・ワークロードチューニング・検証のための開発プラットフォーム」であり、本番量産サーバーではありません。Server Platform 1.0への準拠も表明されていません。ソフトが同じ命令で動くことと、遠隔管理・障害記録・ファームウェア更新を既存の運用基盤に組み込めることは別の課題です。
事業面では集約が起きています。Qualcommは2025年12月10日にVentana Micro Systemsを買収し、2026年6月にはTenstorrentを80億〜100億ドルで買収交渉中とReutersが(The Informationを引用して)報じました(この件は交渉段階の報道であり、成立の確認はできていません)。これを「RISC-Vスタートアップの淘汰」と読むのは一つの解釈ですが、Qualcommは自社のRISC-V能力強化として説明しており、独立CPUベンダーから大手SoC企業への能力集約と見るほうが中立的でしょう。いずれにせよ、汎用サーバーCPUを単独で売り切るビジネスモデルは、少なくとも現時点では成立しにくいことを示しています。
6. 少数派だが現役 — メインフレーム、UNIXサーバー、組込み
IBMのz/Architectureは健在です。z17は2025年4月8日に発表され、6月18日に一般提供されました。Telum IIプロセッサは8コア5.5GHz動作でコアあたり36MBのL2キャッシュを持ち、IBMはz17について最大4,500億回/日のAI推論を1ミリ秒の応答時間で処理できると公称しています(ベンダー公称値です)。専用アクセラレータのSpyreも2025年10月28日に一般提供が始まりました。Power側はPower11が2025年7月8日に発表、7月25日に一般提供されています。
SPARCについては「終息」と一言で片づけると実態を見誤ります。新規CPU開発の主流からは外れましたが、富士通のSPARC M12は2029年8月まで販売、2029年11月まで出荷、2034年11月までサポートが予定されています。移行計画を立てる立場からは、この時間軸のほうが重要です。
組込み領域では、Xtensa、ARC、AVR、PIC、ルネサスのRXやSuperH、そして8051系までが現役で動いています。出荷個数で見ればこちらのほうが圧倒的ですが、性格がまったく違うので、データセンターのISA議論と同じ土俵で比較する意味はほとんどありません。
7. TOP500から見た構図
2026年6月のTOP500(第67版)では、中国のLineShineがHPLで2.198エクサフロップスを記録して1位に立ちました。中国のシステムがTOP500の首位に立つのは、2017年のSunway TaihuLight以来です。深圳の国家スーパーコンピュータセンターに設置され、独自のLingKunプラットフォーム上でLX2(304コア、1.55GHz)プロセッサを1,378万9,440コア分使い、独自のLingQiインターコネクトとKylin OSで動いています。命令セットについてはArmv9系とする報道がありますが、TOP500の公式記載はプロセッサ名と動作周波数にとどまっており、詳細は限定的です。
2位以下はEl Capitan(1.809 EF、AMD EPYC+Instinct MI300A)、Frontier(1.353 EF、AMD)、Aurora(1.012 EF、Intel)、JUPITER Booster(1.000 EF、Grace Hopper)と続きます。日本の富岳は9位(442 PF)です。AMDは全体で191システムを支えています。
ただしTOP500の読み方には注意が必要です。これは申請されたシステムの登録簿であって、性能や設置台数の市場シェア調査ではありません。中国が安全保障上の理由で申請を控えているシステムがあることは公然の事実ですし、ハイパースケーラのAIクラスタの多くも登録されていません。「HPCではx86が支配的」という言い方は、TOP500の登録システム数の話に限定するべきです。
アーキテクチャの多様性という点では、2026年6月のトップ10は近年でも特に混在しています。AMD EPYC+Instinct、Intel Xeon+Data Center GPU Max、Arm系のGrace Hopper、そして中国独自プラットフォーム。単一のISAが支配する構図はもう成立していません。
8. 国家戦略としてのCPU
ISAの選択が技術判断だけで決まらなくなって久しいですが、その傾向は強まる一方です。
中国は多層的な自給体制を敷いています。ライセンスも輸出規制も回避できるRISC-Vを国家的に推進し(2025年3月にはRISC-V国産化促進の政府指針が準備されているとReutersが報じました)、独自ISAのLoongArch、x86ライセンスを持つHygonとZhaoxin、Arm系のPhytiumを並行させる形です。ただし性能主張はメーカー公称が多く、独立したベンチマーク検証がそろっていないため、競合比較にそのまま使うのは危険です。同一コンパイラ・同一メモリ構成・同一電力枠での第三者測定がなければ、数字は参考値にとどめるべきでしょう。
欧州はEuropean Processor Initiativeの流れでSiPearlがRhea1を開発しており、80基のArm Neoverse V1コアを載せたこのチップは2025年7月にテープアウトを完了しました。プロセッサ主権を掲げた取り組みですが、Armアーキテクチャに依存している点で「主権」の範囲は限定的です。
日本では、Rapidusが2nm GAAの試作に成功し2027年の量産開始を目標に掲げています(外部分析では2027年度後半の立ち上がりと2028年のフルボリュームを想定する見方が強く、あくまで目標として読むべきです)。CPU設計側では、理化学研究所が富士通・NVIDIAと共同で進める「富岳NEXT」が2030年頃の稼働を目指しており、CPU部にArmベースのFUJITSU-MONAKA-X、アクセラレータにNVIDIA GPUを組み合わせる構成が公表されています。理研の公式発表では富岳比で5倍以上のハードウェア性能を目標とし、FP8疎行列で600エクサフロップス超のピーク性能を掲げています。AIアクセラレータではPreferred NetworksのMN-Coreが独自路線を続けています。
これらに共通するのは、ISAを国産化しようとしているわけではないという点です。日本も欧州もArmという他国発のISAの上で、実装と製造の主権を確保しようとしています。「ISA主権」と「シリコン主権」は別物であり、実際に交渉力を生むのは後者だという判断が働いているように見えます。
9. 2030年に向けた見通し
ここからは筆者の見立てです。確定した事実ではないので、判断が変わる条件とセットで書きます。
| 論点 | 筆者の見立て(推定) | 判断が変わる条件 |
|---|---|---|
| Armのサーバー台数シェア | AIホストCPU需要が続く限り上昇するが、汎用サーバーの置き換えはゆるやか。2030年時点でも台数で過半には届かないと見る | Mercury推計の台数シェアが20%を超えたら、上昇ペースの見直しが必要 |
| x86の防衛 | EAGによるISA統一は正しい方向だが、勝敗を決めるのは製造。2030年まで確実に生き残るが、成長領域はAI周辺から外れる | Intel 14Aが大口外部顧客を確保し歩留まりが改善するか、逆に中止となるか |
| RISC-Vのサーバー参入 | エッジ・AIアクセラレータ・中国市場では確実に伸びる。汎用サーバーでx86/Armを脅かす水準には2030年までに到達しないと見る | Server Platform 1.0準拠機がハイパースケーラで本番採用された時点で見直す |
| ISAは差別化要因か | 単独では違う。ただしライセンス経済、エコシステムの慣性、地政学的中立性という3点で戦略的意味は残る | チップレット標準(UCIe)でISA混在が容易になれば、さらに相対化が進む |
| CPUベンダーの顔ぶれ | ArmとNVIDIAの直販参入で、CPU市場はIntel/AMDの複占から多極化へ。ハイパースケーラの内製も続く | Arm AGI CPUとVeraの独立ベンチマークが公称値を下回った場合 |
「ISAはもはや差別化要因ではない」という論をどう評価するか。妥当性は高いのですが、単純化しすぎでもあります。AMDは2025年に「Arm ISAがx86に対して効率面の優位を持つわけではない」と主張しており、これは技術的には概ね正しい。実際、勝負を決めているのはマイクロアーキテクチャの実装、製造ノード、メモリとパッケージング、ソフトウェアの成熟度です。
それでもISAが無意味にならないのは、3つの理由からです。第一にライセンス経済(RISC-Vのロイヤリティフリーは、大量に内製するプレイヤーには実質的な意味を持つ)。第二にエコシステムの慣性(x86のレガシー資産とArmのモバイル資産は、技術的優劣とは別に移行コストを規定する)。第三に地政学的中立性(輸出規制の対象になりうるかどうかは、国家プロジェクトでは技術性能より重い変数になることがある)。したがって「ISAは唯一の差別化要因ではないが、依然として戦略的な選択肢である」というのが、より正確な表現でしょう。
10. まとめ
- 現役ISAは x86-64 と AArch64 の2大勢力に、成長中の第3極RISC-V、そしてIBM z/Power、中国独自ISA、組込み系が併存する構図。この骨格は当面変わらない
- 「Armがサーバー売上の45%超」は完成システムの売上ベース、「13.6%」はCPU出荷台数ベース。同じ市場を別の物差しで測った数字であり、混同すると判断を誤る
- 2026年の本質的な変化は、ArmとNVIDIAが完成CPUの直販に踏み込んだこと。CPU供給者の顔ぶれが多極化し、Armは自社ライセンシーと競合する立場になった
- x86陣営はEAGでISAの分断を修復しつつあるが、競争力の鍵はIntel 14Aの外部顧客獲得という製造側の問題に移っている
- RISC-VはRVA23とServer Platform 1.0で土台が整い、OS側も追いついた。ただし出ているサーバーは開発・検証用が中心で、本番量産の実績はこれから
- TOP500では中国のLineShineが首位に立ったが、TOP500は申請システムの登録簿であって市場シェア調査ではない
- 主権の議論において、各国が目指しているのはISAの国産化ではなく実装と製造の掌握。「ISA主権」と「シリコン主権」は分けて考える必要がある
ISAの数を数えることには、もうあまり意味がありません。数えるべきは、そのISAの上に何が積み上がっているか、誰がそれを実際に製造できるか、そして自分たちのワークロードがどこで一番安く速く動くか、です。この3つを個別に評価する習慣をつけておけば、次に派手なシェア数字が流れてきたときも、落ち着いて読めるはずです。
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