AI用途のチップといえばNVIDIAのGPU、というのが常識になって久しいのですが、2026年に入ってその常識はかなり崩れてきました。OpenAI・Meta・Anthropicといった最前線のAI企業が、そろってギガワット単位の「非NVIDIA」調達を確約しています。では実際のところ、NVIDIA以外にどんなチップがあり、性能・価格・シェアはどう違うのでしょうか。
この問いが意味を持つのは、選択肢が「あるかないか」の段階を過ぎて「どの条件なら乗り換えが合理的か」という段階に入ったからです。数年前まで代替品は事実上存在せず、比較記事を書く意味自体が薄いものでした。今は違います。メモリ容量ではAMDがNVIDIAを上回り、GoogleはTPUを外部に売り始め、AWSは自社チップを100万個以上動かしています。
先に結論を書きます。NVIDIAは依然としてデータセンター向けAIアクセラレータ売上の8割前後を握っていますが、その優位はハードウェアの性能差ではなく、CUDAというソフトウェア資産と、HBM・先端パッケージングの供給枠を押さえている点に支えられています。生スペックでは競合がすでに肩を並べており、最大の脅威はAMDではなく、ハイパースケーラーが自社設計するカスタムASICです。ただし外部の第三者ベンチマークで横並び比較できるのはNVIDIAとAMDが中心で、それ以外の多くはベンダー自己申告値にとどまります。この非対称性が、比較を難しくしている最大の要因です。
1. 市場シェアの実像 — 「何を分母にするか」で数字が変わる
まず数字の前提を揃えておきます。「NVIDIAのシェア」として流通している数値は、分母の取り方によって70%台から90%超まで大きくブレます。データセンター向けAIアクセラレータの売上ベースなのか、ハイパースケーラーの内製シリコンを含むのか、それともゲーム向けを含むディスクリートGPUの出荷枚数なのか。これらは別物です。
| 出典 | 時点 | NVIDIAシェア | 補足 |
|---|---|---|---|
| Silicon Analysts | 2026年 | 約80%(2026年は75%へ低下と予測) | 2024年のピークは約87%。AMDは5〜7%、ハイパースケーラーASICが10〜15%を目標とする |
| IDC | 2026年 | 約81% | 上記と同じ売上ベースだが推計手法が異なる |
| Kearney | 2025年→2030年予測 | 約90%→70% | 長期の低下トレンドを示す予測値 |
| TrendForce | 2026年 | (ASIC側の数値) | ASIC搭載AIサーバー出荷が全体の27.8%へ。ASIC出荷は前年比44.6%増、汎用GPUの16.1%増を大きく上回る |
絶対額で見るとNVIDIAの優位は数字以上です。FY2026のデータセンター売上は1,937億ドル、FY2027 Q1は単四半期で752億ドル(前年同期比92%増)。対するAMDは2026年Q2(6月27日締め)のデータセンター売上が67億ドルで前年同期比107%増、営業利益21億ドル・営業利益率31%。伸び率はAMDのほうが高いものの、母数の差は依然として10倍前後あります。
むしろ注目すべきはBroadcomです。ハイパースケーラーのカスタムASICを共同設計する立場で、FY2026 Q2(2026年6月3日発表)のAI半導体売上は108億ドル、前年同期比143%増。Q3は200%超の成長で160億ドルを見込むとしており、FY2027には年間1,000億ドル超という見通しをHock Tan CEOが繰り返し表明しています。「NVIDIA対AMD」という構図で見ていると、この第三の軸を見落とします。
2. 比較の基準線 — NVIDIAの現行3世代
比較の物差しを先に置きます。NVIDIAは現在Hopper(H100/H200)、Blackwell(B200/B300、GB200/GB300 NVL72)、Rubin(Vera Rubin NVL72)の3世代が併存しており、Rubinは2026年6月1日に本格生産へ入りました。
| 項目 | H200 | B200 (SXM) | Rubin |
|---|---|---|---|
| プロセス/構成 | TSMC 4N、単一ダイ(H100と同じGH100) | TSMC 4NP、デュアルダイ 2,080億トランジスタ | TSMC 3nm、2コンピュートダイ+2 I/Oダイ、3,360億トランジスタ |
| メモリ/帯域 | 141GB HBM3e/4.8 TB/s | 180GB HBM3e/7.7 TB/s | 288GB HBM4/22 TB/s |
| 低精度演算 | FP8 約1,979 TFLOPS(密)/3,958(2:4スパース) | FP4 9 PFLOPS(密)/18(スパース)、FP8 4.5/9 PFLOPS | NVFP4 推論50 PFLOPS/学習35 PFLOPS |
| インターコネクト | NVLink 4:900 GB/s | NVLink 5:1.8 TB/s | NVLink 6:3.6 TB/s |
| ラック構成 | HGX H200(8基) | GB200 NVL72:FP4合計1,440 PFLOPS、高速メモリ最大30TB | Vera Rubin NVL72:NVFP4推論3.6 EF/学習2.5 EF、HBM4 20.7TB |
この表を読むうえで、ひとつ注意が必要です。ベンダーが見出しに使う演算性能値は、しばしば構造化スパース性(2:4スパース)を前提にした数字です。NVIDIAの場合、スパース値はちょうど密実行値の2倍になります。実運用の多くは密実行に近いため、比較する際は必ずどちらの基準かを揃える必要があります。B200単体を「FP4 20 PFLOPS」と紹介している資料をよく見かけますが、これはGB200スーパーチップに搭載される高クロック版Blackwell GPUの値(20/10 PFLOPS、186GB・8 TB/s)で、単体のB200 SXM(180GB・7.7 TB/s)とは別物です。
Rubinと組み合わされるVera CPUは、Armv9.2準拠の独自コア「Olympus」を88基(空間マルチスレッドで176スレッド)搭載し、227億トランジスタ規模。NVIDIAはBlackwell比で「エージェント処理のエネルギーあたりスループット最大10倍」を公称していますが、これは特定のMoEモデル・特定の入出力長での測定であり、独立ベンチマークはまだ存在しません。密モデルの短コンテキスト推論では2〜3倍程度と見るのが妥当でしょう。
3. AMD Instinct — 唯一の「第2の商用供給源」
誰でも買えるNVIDIA代替として実質的に唯一の選択肢がAMDです。2026年7月23日の「Advancing AI 2026」でMI455XとHeliosラックが発表され、製品としても構図としても大きく前進しました。
| 項目 | MI300X | MI355X | MI455X(MI400シリーズ) |
|---|---|---|---|
| アーキ/プロセス | CDNA 3 | CDNA 4(TSMC 3nm) | CDNA 5(TSMC 2nm/3nm混載)、3,200億トランジスタ |
| メモリ/帯域 | 192GB HBM3/5.3 TB/s | 288GB HBM3E/8 TB/s | 432GB HBM4/最大23.3 TB/s |
| 演算(公称ピーク) | — | MXFP4 10.1 PFLOPS/MXFP8 5 PFLOPS | MXFP4 約40 PFLOPS/FP8 20 PFLOPS |
| TDP | 750W | 1,400W | 未公表 |
| ラック構成 | — | — | Helios:72基+EPYC Venice。FP4 2.9 EF/FP8 1.4 EF、HBM4 31TB |
AMDの売りは一貫してメモリ容量です。MI355Xの288GBはB200の180GBを大きく上回り、MI455Xの432GBはRubinの288GBに対して50%多い。単一アクセラレータに載せられるモデルが大きくなるほど、GPU間の通信が減って推論のコストと遅延が下がります。大規模モデルの推論では、演算性能よりこちらが効くケースが少なくありません。
興味深いのは、AMDが自らピーク値と実効値のギャップを公開したことです。Advancing AI 2026のソフトウェアセッションで示されたMI455Xの実測値はFP4で20 PFLOPS。公称ピークの40.26 PFLOPSに対しておよそ50%です。AMDはこれがMAMF(最大到達可能行列演算FLOPS)測定であり、デバイスに最も有利な行列形状での値だと質疑で認めています。多くのベンダーが伏せる数字を出した点は評価できますが、逆に言えば他社の公称ピーク値も同程度に割り引いて読むべきだ、ということでもあります。
需要側の確約も本格化しました。OpenAIが6GW(2025年10月、MI450シリーズから開始、AMD株1.6億株分のワラント付与)、Metaが6GW(2026年2月)、Anthropicが最大2GW+AMDによる最大50億ドルの出資(2026年7月22日、初回1GWは2027年上期)。三社合計で約14GW規模です。AnthropicとはClaudeを使ってROCmの開発を加速させる技術提携も結ばれており、AMDの弱点がソフトウェアであることを当事者が認めた形になっています。
なお、Heliosの量産立ち上がり時期には見解の相違があります。AMDは2026年下期を主張し、SemiAnalysisは2027年Q2へのずれ込みを指摘、AMDはこれを明確に否定しています。第三者による大規模モデルでのベンチマークもまだ出ていません。
4. ハイパースケーラーの内製ASIC — 実質的な最大の対抗軸
売上規模でも成長率でも、NVIDIAの牙城を最も削っているのはAMDではなくカスタムASICです。自社ワークロードに最適化できるうえ、設計をBroadcomやMediaTekに委ね、製造はTSMCに出すことで、垂直統合のコストメリットを取りにいっています。
| チップ | メモリ/帯域 | 演算(公称) | 提供形態・状況 |
|---|---|---|---|
| Google TPU v7 Ironwood | 192GB HBM3E/7.37 TB/s | FP8 4,614 TFLOPS | 2025年11月6日GA。1 Superpod=9,216チップ、チップ間9.6 Tb/s。基本はGCP経由だが、Anthropic向けには実機販売も |
| AWS Trainium3 | 144GB HBM3e/4.9 TB/s | FP8 2.52 PFLOPS | TSMC 3nm。re:Invent 2025でGA。Trn3 UltraServerは144チップで362 PFLOPS。AWS限定 |
| Microsoft Maia 200 | 216GB HBM3e/7 TB/s | FP8/FP4ネイティブ(絶対値未公表) | TSMC 3nm、1,400億超トランジスタ。2026年1月公表、Azure内で稼働。外部提供SKUなし |
| Meta MTIA | LPDDR5中心(HBM非搭載世代あり) | 非公表 | 推薦・ランキング向けの内製効率化チップ。外部提供なし。Broadcom/MediaTekと協業 |
構図を変えたのはGoogleです。自社利用に限っていたTPUを外部へ出し始めました。2025年10月の発表でAnthropicが最大100万TPUの利用を表明し、SemiAnalysisの分析によれば、うち40万台はBroadcomが完成ラック(推定100億ドル規模)としてAnthropicへ直接販売、残り60万台はGCP経由のレンタルという構成です。前者は「クラウドサービス」ではなく「ハードウェア販売」であり、GoogleがNVIDIAと同じ土俵に立ったことを意味します。2026年4月のCloud Next 2026ではIronwoodの一般提供に加え、第8世代を学習用(Broadcom設計「Sunfish」)と推論用(MediaTek設計「Zebrafish」)に分割する構想も示されました。
AWSは規模で押しています。re:Invent 2025時点で「Trainiumは100万個超が本番稼働中」「Bedrockの推論の大半はTrainium上で動いている」とMatt Garman CEOが述べており、Trainium3はTrainium2比で演算4.4倍・メモリ帯域3.9倍・電力効率約40%改善。Neuron SDKのネイティブPyTorch対応も入り、移植のハードルは下がりつつあります。次世代Trainium4ではNVLink Fusion対応が予告されており、NVIDIAとの混成クラスタという方向も見えてきました。
Microsoftとの比較で言えば、Maia 200は「Trainium3比でFP4性能3倍」「自社既存フリート比で価格性能30%改善」を公称していますが、これは自社評価であり方法論は公開されていません。外部から検証する手段が現状ないため、数字の扱いには注意が要ります。
5. Intel と専業スタートアップ
Intelは苦戦が続いています。Gaudi 3は128GB HBM2e・3.7 TB/s、BF16およびFP8がともに約1,835 TFLOPS(FP8でも倍増しないのがNVIDIAとの違い)、8アクセラレータ+ベースボードのキットで125,000ドル(1基あたり約15,625ドル)とIntel自身が公表しました。H100の半額水準という価格は魅力的でしたが、2024年のAIアクセラレータ売上目標5億ドルは未達に終わっています。
後継のFalcon Shoresは商用投入が中止され社内テストチップに格下げ。現在のロードマップは、2025年10月のOCP Global Summitで発表された推論特化GPU「Crescent Island」(Xe3Pアーキテクチャ、160GB LPDDR5X、空冷サーバー向けに電力・コスト最適化)が2026年下期に顧客サンプル出荷、その後継として2027年にラックスケールの「Jaguar Shores」という二段構えです。Crescent IslandはLPDDR5X採用のため、HBM勢に対してメモリ帯域では大きく劣ります。大容量メモリを活かしたトークン単価勝負に賭ける設計と言えます。
専業スタートアップ側では、2025年末に大きな地殻変動がありました。NVIDIAが推論特化のGroqを約200億ドルで買収したのです。GroqのLPUはSRAMのみの決定論的アーキテクチャで超低レイテンシに強く、GPUが苦手とする領域を埋めるものでした。NVIDIAはこれをRubin世代の分離型推論(プリフィルとデコードを別ハードで処理する構成)に組み込んでおり、GTC 2026のキーノートでその構想が示されています。競合を買って自社の穴を埋めた形で、独立系の代替という選択肢がひとつ減ったことになります。
対照的に上場を果たしたのがCerebrasです。ウェハスケールのWSE-3(4兆トランジスタ、90万コア、オンチップSRAM 44GB、TSMC 5nm)を武器に、2025年売上は5.10億ドル(前年比76%増)。2026年4月17日にS-1を提出し、5月にNASDAQへ上場(ティッカーCBRS)、最終的に約55億ドルを調達しました。2026年Q1のGAAP売上は1億9,340万ドル。ただしS-1の時点でUAE関連2社に売上の86%が集中しており、顧客集中リスクは大きい。OpenAIとの750MW・200億ドル超の契約、AWSとの提携(Trainium3でプリフィル、CS-3でデコードという分離型構成)が今後どれだけ実売上に変わるかが焦点です。
このほか、SambaNova(SN40L、SRAM+HBM+DRAMの三層メモリ)、Tenstorrent(Jim Keller率いるTensixアーキテクチャ)、d-Matrix(カスタムDRAM直上積層で1カードあたり100 TB/s)、Etched(Transformer専用ASIC)、韓国のFuriosaAI・Rebellionsなどが推論領域で存在感を出そうとしています。いずれも「特定条件で速い」ことは示せていますが、汎用性とソフトウェアの厚みでは大きく水をあけられています。
6. 中国勢 — 輸出規制が生んだ第二の生態系
中国では輸出規制が国産化の強力な推進力になっています。中心はHuaweiのAscend 910Cで、SMICの7nm(N+2)プロセス、530億トランジスタ、デュアルダイ構成、128GBメモリ・3.2 TB/s。FP16性能は業界推計で約780〜800 TFLOPS、H100の8割程度とされます(Huaweiは公式スペックを詳細開示していないため、これはSemiAnalysis等による推計値です。なお320 TFLOPSという数字が流通していますが、これは前世代の910Bの値です)。
Huaweiの戦略はチップ単体ではなくシステムで殴ることにあります。CloudMatrix 384は384基の910Cと192基のKunpeng CPUを全結合し、BF16で約300 PFLOPSに到達。GB200 NVL72に対して演算では約1.7倍ですが、消費電力は約560kW(NVL72の約145kW)で、電力効率では大きく劣ります。電力が潤沢で先端プロセスが手に入らない環境では合理的な設計判断ですが、そのまま輸出競争力になるかは別問題です。
Cambricon(寒武紀)、Biren、Moore Threads、Alibaba T-Head、Baidu Kunlunなども並走していますが、多くがSMICのN+2に依存しており、歩留まりが実質的な生産上限になっています。ソフトウェア面では、HuaweiのCANN(CUDA相当のランタイム)に加え、CUDAコードをトランスコンパイルするツールチェーンの整備が各社で進んでいます。
米国の輸出規制は依然として流動的です。H20は2025年に対中禁輸となった後に条件付きで解除され、H200も条件付きで対中販売が認められましたが、実際の出荷状況は報道ベースでも一貫していません。この領域は数か月単位で状況が変わるため、調達計画に組み込む際は最新の官報・BIS発表を直接確認する必要があります。
7. 日本勢とエッジ
日本のAIアクセラレータで世界市場に数字として現れている企業はありませんが、独自路線を走っている例はあります。Preferred NetworksのMN-Coreシリーズは、MN-Core(12nm)、MN-Core 2(7nm)と続き、推論特化のMN-Core L1000を2027年投入予定としています。MN-3スパコンがGreen500で複数回世界一を獲得した実績が示すとおり、電力効率に振った設計が特徴です。チップから基盤モデルまでを自社で持つ垂直統合も、他にあまり例がありません。
CPU側では、富士通のFUJITSU-MONAKA(Armベース144コア、コアダイ2nm+SRAM/IOダイ5nmの3D積層、2027年投入予定、350W/500W SKU)がHot Chips 2026で詳細を公開しています。これはGPUや専用アクセラレータではなくCPUであり、AIアクセラレータの比較軸には直接乗りません。ただしNVLink Fusion対応の後継が計画されており、「国産CPU+外部GPU」というハイブリッド構成が主権AI用途での現実解になりつつある点は、AWS Trainium4のNVLink Fusion対応と同じ流れとして押さえておく価値があります。
エッジ・オンデバイス領域では、AppleのNeural Engine搭載Apple SiliconとQualcommのHexagon NPUが支配的です。データセンターの学習市場とは別セグメントですが、推論の一部が端末側へ移るトレンドは、長期的にはデータセンター需要の構成を変える要因になります。
8. 横断比較 — メモリ、価格、ソフトウェア
LLMの推論は多くの場合メモリ帯域律速です。演算性能よりも、メモリ容量と帯域のほうが実運用の体感に効きます。主要チップを並べると次のようになります。
| チップ | メモリ | 帯域 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| AMD MI455X | 432GB HBM4 | 最大23.3 TB/s | 2026年下期から出荷開始。誰でも購入可能 |
| NVIDIA Rubin | 288GB HBM4 | 22 TB/s | 2026年6月生産開始。初期供給は大口顧客優先 |
| AMD MI355X | 288GB HBM3E | 8 TB/s | 出荷中。専業クラウドでの提供も多い |
| Microsoft Maia 200 | 216GB HBM3e | 7 TB/s | Azure内部利用のみ。外部SKUなし |
| Google TPU v7 / NVIDIA B200 | 192GB HBM3E/180GB HBM3e | 7.37 TB/s/7.7 TB/s | TPUはGCP経由(一部実機販売)。B200は広く流通 |
| AWS Trainium3 / NVIDIA H200 | 144GB HBM3e/141GB HBM3e | 4.9 TB/s/4.8 TB/s | Trainium3はAWS限定。H200は流通量が最も多く価格もこなれている |
| Huawei Ascend 910C | 128GB | 3.2 TB/s | 実質的に中国国内向け |
価格については、まず前提として、NVIDIA・AMDとも大口顧客向けの実売価格は公開されていません。流通している「H100は1基2.5万〜4万ドル」といった数字はすべて報道・推計ベースです。参考値として、Silicon AnalystsはH100の製造原価を約3,320ドル、販売価格を約28,000ドル(粗利約88%)と推計しています。公式価格として確認できるのは、前述のIntel Gaudi 3のキット価格くらいです。
クラウドの時間単価は事業者・地域・契約期間で大きく変動するため、単一の数字を引用しても意味がありません。実務では、自分が使うリージョンで、同じ時期に、同じ契約形態(オンデマンド/リザーブド/スポット)で比較するしかない、というのが正直なところです。傾向としてはAMD勢が同世代のNVIDIA製品より2〜4割安く、専業クラウド(Lambda、Runpod、Nebius、TensorWave等)がハイパースケーラーより大幅に安い、という関係が続いています。
そして最後に残るのがソフトウェアです。ここがNVIDIAの本丸であり、移行判断の分かれ目です。
| スタック | 対象 | 成熟度と制約 |
|---|---|---|
| CUDA | NVIDIA | 事実上の標準。vLLM、SGLang、TensorRT-LLMなど主要推論スタックはCUDA前提で、他アーキテクチャへの移植版が存在しないものも多い |
| ROCm | AMD | PyTorchネイティブ対応済み。ROCm 7以降で大きく前進し、開発者体験を刷新したROCm.aiも投入。ただしCUDA最適化済みのカーネルは書き直しが必要 |
| JAX/XLA | Google TPU | JAX+MaxText/JetStreamが本流。PyTorch/XLAは橋渡しになるが、実運用ではネイティブJAXより明確に遅い |
| Neuron SDK | AWS Trainium | re:Invent 2025でネイティブPyTorch対応とNKI(カーネルインターフェース)のオープンソース化。AWS外では使えない |
| CANN/oneAPI 他 | Huawei/Intel | CANNはオープンソース化が進む。oneAPI/OpenVINOは推論寄りで、学習市場での実績は乏しい |
同じ「PyTorchが動く」でも、意味する内容には幅があります。モデル定義がそのまま走るのと、本番性能が出るまでチューニングできるのとでは、必要な工数が一桁違います。Silicon Analystsの推計では、同じハードウェアでもNVIDIAが50〜55%のMFU(モデルFLOPS利用率)を出すのに対しAMDは約45%とされており、カタログスペックの差以上に実効性能の差が残ります。この差が縮むかどうかが、今後2年の最大の見どころです。
9. 供給制約 — 実は性能より効いている変数
見落とされがちですが、2026年の競争を実質的に規定しているのは性能ではなく供給です。HBMとTSMCのCoWoS先端パッケージングという二つのボトルネックが、各社が作れるチップの上限を決めています。
HBM3EはSamsung・SK Hynixとも2026年分がほぼ売り切れ、価格も上昇。HBM4はRubinとMI455Xが同時に必要とするため、さらに逼迫します。CoWoS-Lについても、NVIDIA・Broadcom・AMDの上位3社で能力の大半が押さえられている状況が続いています。つまり「性能で勝っているか」より「枠を確保できているか」のほうが、実際の出荷台数を左右する。この構造がある限り、シェアの急変は起こりにくいと考えられます。
逆に言えば、供給が緩む局面ではシェアが動きやすくなります。HBM4の量産が本格化し、CoWoS能力が拡張される2027年前後が、次の変曲点になる可能性があります。ただしこれは筆者の推定であり、精密な予測ではありません。
10. 選定の指針
実務で判断するなら、まずワークロードを学習と推論に切り分けるところから始めます。
- 大規模な学習:CUDAの成熟度、NVLinkによるスケールアップ、供給確保のいずれでもNVIDIAが第一候補です。ただし供給逼迫を前提に、AMD MI355X/MI455Xを第二供給源として実際に評価しておく価値はあります。OpenAI・Meta・Anthropicが揃って評価を通したという事実は、少なくとも「試す価値はある」ことの傍証になります。
- 大規模な推論・コスト重視:メモリ容量で有利なAMD、GCP前提ならTPU、AWS前提ならTrainium。いずれもトークン単価で比較するのが筋です。超低レイテンシが要件ならCerebrasのような専用アーキテクチャも候補に入りますが、汎用性は犠牲になります。
- 移行コストの定量化:ROCm/XLA/Neuronへの移植工数と、移行後に出せる実効利用率を掛け合わせて評価します。CUDA最適化資産が厚い組織ほど閾値は高くなります。カタログ価格の差だけで判断すると、ほぼ確実に見誤ります。
- クラウドかオンプレか:継続的に回し続けるワークロードなら購入・枠確保、変動的なら専業クラウドでマルチベンダー比較。ただし現在の供給状況では「買いたくても買えない」ケースがあるため、供給確保そのものを選定基準に含めるべきです。
判断を見直すべきタイミングの目安としては、(1) ROCmやカスタムASICの第三者ベンチマークがBlackwell/Rubinの8割以上に達し、かつトークン単価で3割以上安くなったとき、(2) HBM4とCoWoSの供給が緩んだとき、(3) 対中輸出規制が再度変更されたとき、あたりが挙げられます。
まとめ
NVIDIA以外の選択肢は、2026年にはっきりと「存在する」ものになりました。メモリ容量ではAMDが先行し、コスト効率ではハイパースケーラーのASICが自社ワークロードで結果を出し、推論の特定領域では専用アーキテクチャが速度で勝っています。NVIDIAがGroqを買収したこと自体、GPUだけでは埋まらない領域があることを認めた行動と読めます。
それでも構図が一気にひっくり返らないのは、CUDAという20年近い蓄積と、HBM・CoWoSの供給枠という二重の堀があるからです。企業が乗り換えるのは、ソフトウェア移行コストが調達節約額を下回ったときだけであり、その閾値はまだ多くの組織にとって高い。ただし、その閾値は年々下がっています。
最後に、この分野の記事や資料を読むときの注意点をひとつ。演算性能の数字を見たら、まず「密実行かスパースか」「ベンダー公称か第三者測定か」を確認してください。MLPerfのような比較可能な形で結果を出しているのはNVIDIAとAMDが中心で、カスタムASICも中国勢もスタートアップも、多くは自社評価にとどまっています。AMDが自ら公称ピークの5割という実効値を出したように、公称値と実測値の間には大きな開きがあるのが普通です。この非対称性を意識しないまま表を並べると、比較しているつもりで比較になっていない、ということが起こります。
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