木曜日, 10月 22, 2026

H3は復活、民間はまだ軌道に届かず:日本のロケット開発・半年後の検証

半年前の4月23日、本ブログで「岐路に立つ日本のロケット開発:H3・民間・再使用で描く2035年」を書きました。あの時点の問いは3つ、H3は立て直せるのか、民間ロケットは軌道に届くのか、再使用技術は動き出すのか、でした。半年が過ぎた今、日本の宇宙輸送はどこまで進んだのでしょうか。

結論を先に書くと、H3は想定より早く立ち直り、再使用の飛行実証もホンダに続いてJAXAのRV-Xが成功しました。一方で、民間ロケットの軌道投入は半年たってもゼロのままです。ZEROの初号機は2027年度の見通しと報じられ、カイロスの4号機は日程が公表されていません。筆者は、2027年が「民間の軌道投入」「再使用」「次期基幹ロケット」の判断材料が一斉に出る年になると見ています。後半では、その見通しを確率と判定条件つきで書きます。

本記事は2026年10月22日時点の公開情報に基づきます。「今後の見通し」の確率は筆者の主観的な推定で、判定条件と判定時期を付けているため、後日採点できます。

1. 半年間の結論

  • H3:2025年12月の8号機失敗から約6か月で飛行を再開し、6号機(30形態の初飛行、6月12日)、9号機(みちびき7号機、8月11日)、10号機(火星衛星探査機MMX、10月20日)と3機連続で成功しました。通算では10機中8機の成功です。
  • 民間:カイロスは3月5日の3号機も飛行中断で、3連敗です。ZEROは射場LC-1の完成待ちで、軌道投入に成功した民間ロケットはまだありません。
  • 再使用:JAXAのRV-Xが7月11日に高度約11m・約40秒の離着陸に成功しました。ただし低高度の要素技術実証で、軌道投入ロケットの回収・再飛行とは別の段階です。
  • 国際環境:NASAは3月24日にGatewayを「現在の形では」一時停止し、Rocket LabのNeutronは10月14日に初飛行を2027年へ延期しました。

2. 半年間の動き

  • 2025/12/22 H3 8号機が失敗(みちびき5号機を喪失)。
  • 2026/2/4 JAXAがイプシロンSを第2段M-35aのBlock1へ見直し、2026年度の実証機打上げを目標に設定。
  • 3/5 カイロス3号機が離昇68.8秒後に飛行中断。
  • 3/24 NASAがGatewayを現在の形で一時停止し、月面基地へ重点を移すと表明。
  • 4/13 JAXAが8号機の主要因は衛星搭載アダプタの剥離の可能性が極めて高いと報告。
  • 5/26 HTV-X1が制御再突入し、ミッションを完了。
  • 6/12 H3 6号機(30形態)が成功。
  • 7/11 JAXAのRV-Xが初の飛行試験に成功。
  • 7/23 イプシロンSの第2段M-35aを約130秒燃焼させる地上燃焼試験を実施。
  • 8/11 H3 9号機がみちびき7号機を軌道投入。
  • 8/30 スペースワンがカイロス3号機の原因は静電気ノイズによる通信異常の可能性が高いと説明。
  • 10/14 LC-1の町担当の主要工事が完了。同日、Rocket LabがNeutronの初飛行を2027年へ延期。
  • 10/20 H3 10号機がMMXを火星遷移軌道へ投入。

3. 前回記事の答え合わせ

前回記事の主な記述を、その後の事実と照らし合わせました。「計画どおり実施」は予測の的中ではなく、公表済みの計画が実現したという意味です。

前回記事の記述 判定 その後の事実
H3-30Sの初飛行は2026年度以降。MMXは2026年度打上げ予定。 計画どおり実施 30形態は6月12日に成功。MMXは10月20日にH3 10号機で火星遷移軌道へ投入されました。地球帰還は2031年7月の見込みと報じられています。
イプシロンSはBlock1で2026年度の打上げをめざす。 未確定(順調) 7月23日にM-35aの燃焼試験を実施し、JAXAは「おおむね計画通り」と説明しています。実証機の打上げ日は10月22日時点で未発表です。
8号機の失敗は「2026年2月19日」で、原因は第2段LE-5B-3の2回目燃焼の短縮。 日付が誤り・原因は要補足 失敗は2025年12月22日です。燃焼の短縮は結果として起きた事象で、JAXAは衛星搭載アダプタの製造時に生じた剥離が主要因の可能性が極めて高いと報告しています。
2号機〜7号機で6機連続成功。 数え誤り 連続成功は5機(試験機2号機、3・4・5・7号機)です。6号機は後の6月12日に飛行しました。
カイロス3号機も失敗。 事実。原因も判明 3月5日に飛行中断。8月30日に、静電気ノイズで自律飛行安全システムの通信が一時途絶した可能性が高いと説明されました。2号機の原因(センサー誤信号)とは別です。
ZEROはLEO最大800kg級。2025年1月にシリーズE累計201億円を調達。 更新・誤り 公称の最大打上げ能力は現在1,000kgです(実証値ではありません)。201億円はシリーズFで2026年1月16日の発表、累計は446億円です。内訳は第三者割当148億円と融資53億円です。
LC-1は2025年完成予定。 遅延 町担当の主要工事は10月14日に完了し、全体は2026年度中に完成予定です。共同通信は、初の打上げは2027年度になる見通しと報じています。
ホンダは2029年に準軌道到達をめざす。 維持(新しい飛行実験は未確認) 2025年6月に高度271.4mの離着陸に成功。2026年3月には宇宙開発利用大賞の内閣総理大臣賞を受賞しました。新たな飛行実験の公表は確認できていません。
RV-Xは能代で高度100m級の飛行試験を予定。 規模が違った 7月11日の実績は高度約11m・水平移動約16m・飛行約40秒で、計画値は約10m・約15mでした。2回目はデータ評価の上で判断するとされています。
CALLISTOの初飛行は2027年に延期。 未確定 JAXAは2026年度の飛行試験開始と説明する一方、CNES側の公示ではギアナでの試験は2027年とされ、時期は流動的です。
宇宙戦略基金の第3期は4,000億円。 誤り 第3期は19テーマ・2,000億円で、第1〜3期の合計は8,000億円です。
アルテミス計画は再編途上で、Gatewayの優先順位を見直し中。 公開前から進行。内容は想定以上 2月27日の見直しで、アルテミスIIIは2027年の地球低軌道試験になり、月面着陸はIV(2028年目標)へ移りました。3月24日にGatewayは一時停止。日本のHTV-XG構想の扱いは未確認です。
Neutronの初飛行は2026年。ispaceのMission 3は2026〜2027年(NASA CLPS)。 外れ Neutronは第1段タンクの前方ドームの欠陥で2027年へ延期。ispaceの米国ミッションは2030年に延期され、NASAとドレイパーの契約も7月に終了しました。日本主導の新Mission 3は2028年にH3で打ち上げる契約です。

出典:JAXA、文部科学省、内閣府、NASA、IST、ispace各社の発表および共同通信、CNBC、SpaceNews等の報道(末尾の出典一覧を参照)

4. H3:立ち直りの中身

8号機の原因は、前回記事の説明を更新する必要があります。第2段エンジンの2回目の燃焼が短く終わったのは事実ですが、それは結果として起きた事象でした。JAXAと文部科学省の調査では、衛星搭載アダプタ(PSS)の製造時に生じた剥離が主要因である可能性が極めて高いとされ、PSSの破損が配管の損傷とタンク圧力の低下を招いて燃焼異常に至ったと説明されています。確定ではなく「可能性が極めて高い」という評価である点は、そのまま押さえておく必要があります。

回復の速さは、数字で見ると際立っています。試験機1号機の失敗(2023年3月)から2号機の打上げ(2024年2月)まで約11か月かかったのに対し、今回は8号機の失敗から約6か月で6号機が飛びました。ただし故障の種類も対策の範囲も違うため、「再開までの期間が短縮した」とは言えても、組織の学習能力が上がったとまでは断定できません。

もう一つ、冷静に見ておきたい点があります。H3は暦年3機のペースです(2025年は5・7・8号機、2026年は6・9・10号機)。政府が掲げる官民で年30機という目標とは、まだ一桁違います。H3の1機あたりの価格も未公表で、「1機50億円」の目標が達成できたかは、この半年でも確認できていません。

5. 民間と再使用:まだ「実証前」

5-1. カイロス:3連敗でも原因は同じではない

3機とも飛行中断に至りましたが、起点は異なります。1号機は固体燃料の燃焼速度の見積り誤り、2号機はノズル角を検知するセンサーの誤信号による姿勢の乱れ、3号機は静電気由来のノイズによる自律飛行安全システムの通信異常の可能性が高いとされています。3号機では機体の位置・速度・姿勢は正常でした。ただ、飛行中断措置が作動しただけでは技術リスクが小さいとは言えません。4号機の日程は公表されていません。

5-2. ZERO:資金とエンジンは進んだが、射場待ち

ISTは2026年1月にシリーズFで201億円を調達し、初号機には国内外7衛星と分離機構の実証を含む8者が打上げ契約を結んでいます。エンジンは4月19日の燃焼試験で周辺の草地に火災が起きたものの、人的被害・設備被害はなかったと報じられ、その後60秒の燃焼試験に成功したと報じられました。射場LC-1は町の主要工事が終わりましたが、IST固有の推進剤プラントは工事中で、初号機の打上げは2027年度の見通しです。

5-3. 再使用:低高度の実証が2件そろった段階

RV-Xの成功で、国内の再使用技術の飛行実証は、ホンダ(2025年6月、高度271.4m)とJAXA(2026年7月、高度約11m)の2件になりました。RV-Xと同型のエンジンは、独仏と共同で開発するCALLISTOに使われます。ただし、これらは離着陸の要素技術の実証です。軌道投入ロケットの第1段を回収して再び飛ばす段階、さらに商業サービスとして成立する段階は、まだ先にあります。

6. 今後の見通し(予想と判定条件)

確率はすべて筆者の主観的な推定です。判定時期を過ぎたら、公式の打上げ結果や発表で答え合わせをします。

予想と判定条件 確率 判定時期 根拠(筆者の推定)
2026年度(〜2027年3月)のH3打上げ回数(失敗を含む)。現在3機(6・9・10号機)。判定:JAXAの打上げ結果。 3機止まり25%
4機40%
5機以上35%
2027年4月 追加は年度後半の1〜2機が中心と見ます。HTV-X2など年度内の予定はありますが、日程は台風・射場作業に左右されます。
HTV-X2を2026年度内に打上げる(成否は問わない)。 55% 2027年4月 H3-24Wでの打上げ予定ですが、10月22日時点で日程は未発表です。24W形態は2025年10月に実績があります。
イプシロンS実証機を2026年度内に打上げる(成否は問わない)。 35% 2027年4月 7月23日に燃焼試験は完了しましたが、実証機の製造と射場作業が残っています。12月までに日程が出なければ、さらに下げます。
2026暦年の国内ロケット打上げが4機(H3×3、カイロス×1)で終わる。 75% 2027年1月 HTV-X2の暦年内打上げは2割程度、カイロス4号機とイプシロンSの暦年内打上げはほぼないと見ています。
カイロス4号機を2027年12月末までに打上げる。 60% 2028年1月 過去の間隔は1→2号機が約9か月、2→3号機が約14か月です。日程が未公表のため、2027年春〜夏が中心と見ます。
カイロス4号機が打上げられた場合に、軌道投入に成功する。 50% 4号機の打上げ後 3機とも飛行中断で、原因はそれぞれ異なります。静電気対策が効くかは、飛ばしてみないと検証できません。
ZERO初号機を2027年12月末までに打上げる。 25% 2028年1月 LC-1は2026年度中に完成予定で、初の打上げは2027年度の見通しと報じられています。新規ロケットの初号機は、射場完成後も整備に時間がかかりやすいと見ます。
日本の民間ロケットが2027年12月末までに初の軌道投入に成功する。(2028年12月末までは65%) 35% 2028年1月 主役はカイロス(打上げ60%×成功50%)で、ZEROが続くと見ます。成功した場合の主体はカイロス約75%、ZERO約25%です。
LC-1全体が2026年度内に完成したと関係者が発表する。 65% 2027年4月 町担当の主要工事は10月14日に完了済みです。IST固有の推進剤プラントの工事が並行して進んでいます。
CALLISTOの飛行試験(初飛行)を2027年12月末までに実施する。 65% 2028年1月 JAXAは2026年度の開始、CNES側は2027年実施を示すなど時期が流動的です。RV-Xの成果は設計に反映されます。
Neutronの初飛行を2027年12月末までに実施する。 65% 2028年1月 Rocket Labは交換ドームの製造・試験を2027年第1四半期に終える見込みとしています。ただし2026年に入って2度延期しています。

出典:各社・JAXAの公表日程、共同通信、Rocket Labの開発更新をもとに筆者が推定(確率は筆者の主観)

6-1. 2027年が分水嶺になる理由

カイロス4号機、ZERO初号機、CALLISTO、Neutron、イプシロンS、HTV-X2の判定が、2026年度後半から2027年にかけて一度に集まります。つまり2027年は、民間の軌道投入と再使用の「実力」が試される年です。H3は3機連続成功で足場を固めましたが、頻度の課題は解けていないため、この年に打上げ数がどれだけ増えるかも見どころです。

6-2. 2つの分岐点についての見立て

分岐点2(民間初の軌道投入)は、2027年末までに決着する確率を35%と見ます。先に成功する可能性が高いのはカイロスで、ZEROは初号機の打上げ時期から見て2028年以降の公算が大きいと考えます。分岐点1(次期基幹ロケットの再使用化)は、RV-Xが低高度の実証にとどまり、CALLISTOもこれからです。再使用を前提とした方式を政府が正式に決める時期は、2027年中ではなく、それ以降になると見ています。また、官民で年30機という目標は、民間が複数社で定常運用に入らない限り届きません。筆者は2030年代前半の達成を1割前後と見ています。

6-3. 予想を外す要因

  • 下振れ:H3で再び失敗が出れば、年度内の打上げが止まります。追加のH3打上げで失敗が出る確率は、年度内で約1割と見ています。カイロス4号機で原因が再発すれば、2027年の軌道投入も遠のきます。
  • 上振れ:H3の年度打上げが5機以上に届き、カイロス4号機が2027年前半に成功すれば、見通し全体が前倒しになります。

7. まとめ

  • H3は8号機の失敗から約6か月で立ち直り、3機連続成功で通算10機中8機成功になりました。課題は信頼性から、打上げ頻度とコストに移っています。
  • 再使用の飛行実証はホンダとJAXAの2件になりましたが、軌道ロケットの回収・再飛行にはまだ届いていません。
  • 民間の軌道投入はまだゼロです。2027年が判定の年になると見ており、次回の答え合わせは2027年4月(年度末)に行う予定です。

8. 主な出典

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